アルタクラッセで手袋をオーダーするべきか?

毎年手にぴったりとあう革手袋がほしいと思いつつも、時期を逃してしまう。今年こそは、と思い調べていたところ、「アルタクラッセ」というブランドをみつけた。今回はこのアルタクラッセのオーダー手袋についてまとめる。

アルタクラッセで手袋のオーダーはすべきではない

オーダー手袋の価格相場は分からないが、スーツのフルオーダーが20万円前後から買えることを考えると、採寸や原材料のコストが低いオーダー手袋の価格は、2万円台が期待するところだ。

「既製品」ではなく「オーダー」にこだわる理由は、手袋が体型の変化の影響を受けづらいことや、革手袋になるといっそうフィット感が求められることにある。

皮革製品は、手入れをしっかりとすれば長持ちするのも特長である。体型の変化で着用できなくなるリスクが少ないこともあり、数年、数十年と使用できるいい製品に出会いたいものだ。

しかしながら、さまざまな観点からアルタクラッセのオーダー手袋を検討した結果、アルタクラッセで手袋のオーダーはするべきではないという結論になった。その理由は下記のとおりである。

  • アルタクラッセのよさが分からない
  • 実態は販促に力を入れている小売だ
  • 型紙から起こしたほうがよいはずだ

アルタクラッセのよさが分からない

アルタクラッセのオーダー手袋は、「モノ」としてのよさが全く分からない。また、市場の評価にリーチすることもできない。ただひとつ分かることは、ブランドとして「高級路線」を目指しているということだけだ。

「モノ」のよさが分からない

アルタクラッセのウェブサイトをみていても、オーダー手袋の「モノ」としてのよさが全く伝わってこない。

アルタクラッセのオーダー手袋は、デザイン、生地、サイズなどをカスタイマイズできる「su misura」という名前のようだ。su misuraのほかには、手袋の「既製品」も取り扱っているのだが、「su misura」と「既製品」の違いが分からない。

そもそも、製造に関する情報がほとんどない。ここから判断できることは、製造に関しては完全な外注になるのであろうということだ。自社で製造設備を持っていれば、また、モノづくりのこだわりがあれば、その点をアピールしない理由はないからだ。

市場の評価にリーチできない

また、別の角度から「su misura」のよさを調べてみようとしても、市場の評価、すなわち、ユーザーレビューにリーチすることができない。

そのひとつの理由として、販売プロモーションが強すぎることがある。実際に、「アルタクラッセ 手袋」で検索してみても、ヒットするのは販売サイトばかりだ。販促に力を入れすぎてしまっているのか、使用しているユーザーが少ないのかは分からない。

いずれにしても、ウェブサイトで「モノ」のよさが分からないだけでなく、市場の評価にリーチすることもできなければ、アルタクラッセの手袋のよさは、分からないままで終わってしまう。

ちなみに、オーダー手袋では比較的知名度が高いと思われる「ブロッサム」は、「ブロッサム 手袋」で検索すると、容易に個人ブログへリーチすることができた。

高級であることだけが分かる

「モノ」のよさが分からなくても、信頼できるブランドであれば検討することはできる。それがブランドの価値だ。しかし、アルタクラッセのブランド価値で分かったことは、高価格帯にポジショニングしている(らしい)ことだけだった。

アルタクラッセのコンセプトには

「最高級、高貴、ハイデザイン」を兼ね備えた手袋の老舗専門店。

という表現がある。ここから推察できることは、高価格帯でモダン(傾向)な製品を販売しているということだ。「モダン」はその時代のトレンドを反映させるため大量生産との相性がわるく、一般的に高価格になる。

アルタクラッセの「既製品」手袋は、1.5万円前後からのようだ。「su misura」の価格がウェブサイトからは分からないのだが、「既製品」よりは高価であると考えれば、2万円からといったことが推測できる。

当初想定していた価格レンジには収まっているものの、やはり、「モノ」のよさが分からない以上は、2万円の博打といわざるを得ない。

実態は販促に力を入れている小売だ

アルタクラッセがモノづくりをしているとは考えられない。モノをつくっていないからには、「製造」小売にもなり得ない。結局のところ、アルタクラッセは販促と販売に特化した小売である。

モノづくりはしていない

前述したとおり、顧客の視点で「モノ」のよさが分かる工夫をしていないことから、アルタクラッセ自体はモノづくりをしていないと思われる。

顧客が服装をオーダーするときに知りたいことは、素材の豊富さや他人の評価ではない。仕立て屋の技術力や、得意とするデザイン、特長こそを知りたいと思う。

しかし、アルタクラッセはこれらの情報、とくに、前者の「技術力」といったことを、客観的に評価する仕組みをあたえていない。

モノづくりにおいて競合との差別化をはかるには、顧客が客観的に評価できる仕組みをあたえないかぎり、競合と同じ土俵に上がることすらできない。

製造小売(SPA)でもない

また、製造小売(SPA)でもなさそうだ。バリューチェーンの流れを考えると、オーダースーツやオーダー手袋の「仕立て屋」も製造小売に近いが、モノづくりをしていないのであれば、「製造」小売にはならない。

アパレル業界を価格帯で分解すると、下記のようになる。下にいくほど価格は高くなる。

  1. 企画から製造、販売までを請け負う製造小売業(SPA)
  2. おもに販促や販売に力を入れる(PB展開あり)小売業(セレクトショップなど)
  3. 歴史や技術力、認知度はまちまちの製造業(ブランド)
  4. 歴史があり認知度も高い製造業(ラグジュアリーブランド)

1のSPAが台頭したことで、2は1のようにコストメリットをだすか、PB展開を進めて差別化をする。また、3と4は差別化することでオリジナリティをだすというのが、生き残るための選択肢だ。

アルタクラッセは、このなかでは2に近い。「仕立て屋」がVC上では1に近いといったが、同じ代金を支払うのであれば、2よりもサイズ感や生地がよいものをつくれそうなので、間違ってはいないだろう。

販促と販売に特化した小売だ

これまでの事実と推測をまとめると、アルタクラッセは販促と販売に特化した小売であるといえる。

コンセプトにある「手袋専門店」という表現は間違っていなかった。小売であれば「専門店」という表現に違和感はない。

しかしながら、商品の「魅力」を詳細に伝えきれていないことからも、「バイヤー」というよりは「マーチャンダイザー」としての機能が強くでている。

「仕入れ」に対するこだわりよりも、仕入れたモノをいかにして「売り上げる」か、または、その手段としてどのように「プロモーションする」か、といったことが目立っている。

競合が少ない商売や、圧倒的なプレゼンスがあれば通用する手法だが、アパレルのようにプレイヤーが多い場合には通用しないだろう。

型紙から起こしたほうがよいはずだ

アルタクラッセの「su misura」は「パターンオーダー」であるが、パターンオーダーでは「既製品」とあまり変わらない。オーダー手袋では、オンライン「フルオーダー」もめずらくしくない。

パターンオーダーには疑問が残る

アルタクラッセの「su misura」で気になっていたことは、su misuraが「パターンオーダー」であることだ。

スーツであっても「オーダー」の定義はあいまいになってきているが、一般的に「パターンオーダー」というと、「既製品」をベースにサイズ調整したものといったところだ。

ちなみに、「イージーオーダー」は既にある型紙をベースにサイズ調整していくものであり、「フルオーダー 」は型紙からつくっていくものだ。

さて、その「パターンオーダー」であるが、実際の採寸は

  • 中指の長さ
  • 手の円周

を測り、類似するサイズを選ぶというものである。しかしながら、指の長さというものは人によって違いがある。また、左右によっても差はあるだろう。つまり、パターン化されたサイズから選ぶのはむずかしいのではないだろうか。

とくに、手は触覚としての機能が優れていることから、指さきの「あまり」などには違和感を覚えやすい。伸縮性がある素材(天然繊維や化学繊維など)であれば気にすることは少ないが、伸縮性にとぼしい皮革製品であれば気になるところだ。

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オンライン「フルオーダー」もある

また、昨今は「フルオーダー」のオーダー手袋であっても、オンラインで発注できるところがいくつかあるようだ。

手袋の採寸はスーツなどとくらべれば平面的であり、採寸しなければならないポイントも少ない。平面上の「大きさ」と立体的な「厚み」が分かれば、「手型」はつくることができる。

スーツは、体全体のふちをなぞり「型」をつくるわけにもいかないため、型紙をつくるにも時間がかかる。しかし、手は実際に手のふちをなぞるだけで「手型」の半分はできあがる。

したがって、顧客が自宅で平面的な「手型」をつくり、立体的にする情報を仕立て屋に伝えれば、あとは、プロフェッショナルが立体的な「手型」をつくってくれるというわけだ。

「既製品」ではダメなのか?

はじめから「オーダー」手袋にこだわって話を進めているが、「既製品」ではダメなのか?というと、そういうわけではない。

たとえば、「デンツ」のように、既製品でも有名な手袋ブランドはいくつかあり、そのファンも多い。あくまでも、「オーダー」から選ぶのは個人の「こだわり」である。

しかしながら、前述したとおり指の長さは人によって異なる。これまでに、「既製品」では指さきの「あまり」が気になるなどの経験があれば、一度「オーダー」手袋を検討してみるのがいいだろう。