バラクータのG4は誰でも着ることができるか?

バラクータの歴史は古く、変わらないデザインは、ハリントンジャケットの代名詞といわれる由縁でもある。しかし、近年はデザインをスリムフィットへ移行するなど、デザインの現代化もみられる。今回はバラクータのG4についてまとめる。

バラクータのG4は万人向けのジャケットではない

バラクータには、主に2種類のジャケットがある。オリジナルでありアイコンでもある「G9」と、G9を改良した「G4」だ。いずれのジャケットも、むかしからのデザインは大きく変わってはおらず、現代的な視点でみるとどこかくせのあるデザインだ。

このバラクータ独特のデザインには、G9が開発された背景や、開発当時の市場ニーズが関係している。これらを知ることで、バラクータ(のデザイン)の受け取り方も変わるはずだ。

しかしながら、バラクータのG4が誰にでも着ることができる適合性の高いジャケットか?というと、着こなしがむずかしく、万人向けのジャケットではないと答える。その理由は下記のとおりだ。

  • 英国に合わせて開発されている
  • 結局はスポーツジャケットである

英国に合わせて開発されている

バラクータ「G4」のオリジナルである「G9」は、英国の気候に合わせてレインウェアとして開発されたという背景がある。また、開発当時のターゲット顧客である「英国人」を取り込むために、「タータンチェック」柄の裏地を採用するなど、英国色の強さがデザインの特徴にもなっている。さらに、スタイルも英国人を想定してつくられていることから、標準的な日本人には着こなしがむずかしいといえる。

レインウェアとして開発されている

バラクータの「G4」について話すまえに、G4のオリジナルである「G9」開発の背景について話さなければならない。バラクータの「G9」というジャケットは、もともとはレインウェアとして開発されたものである。

バラクータは、1937年に英国のマンチェスターで設立された。バラクータを設立したのは、バーバーリーやアクアスキュータムのレインコートを製造していた工場の経営者であるミラー兄弟だ。また、英国マンチェスターという場所は、1年をとおして降水量が多い土地である。そのため、レインウェアの需要も高かったといわれている。

ミラー兄弟は、それまでに培ったレインコートの製造技術と、レインウェア需要の高さという地の利を活かして、オリジナルのレインウェア「G9」を開発して販売した。

実際にG9の販売は好調で、ミラー兄弟の工場は、バーバーリーやアクアスキュータムのOEM工場から、「バラクータ」というブランドの立ち上げに成功した。

英国がデザインの特徴になっている

「G9」は、英国マンチェスターにおける「レインウェア需要の高さ」という地の利を活かして開発されたジャケットだ。つまり、ターゲット顧客は英国人である。そのため、ジャケットのデザインには英国色が色濃くがあらわれている。

もっとも顕著な例が、「タータンチェック」柄の裏地だ。じつは、G9はレインウェアとして開発されたのと同時に、当時上流階級のスポーツであったゴルフプレイヤーもターゲットにしていた。

当時の英国でゴルフを楽しむ人たちは上流階級がほとんどであったため、彼らにとって高貴なイメージのあった「タータンチェック」柄を採用することは、ゴルフプレイヤーの取り込みにも影響すると考えられた。

実際に「G9」の販売が成功したことで、タータンチェック柄の裏地は現在でもバラクータのアイコンになっている。しかしながら、シンプルな表地のデザイン、カラーに対して、裏地のコントラストが強すぎるという見方もできる。

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スタイルが英国人向けになっている

「G9」にしても「G4」にしても、ジャケットとしてのスタイルは英国人(または欧米人)向けにつくられている。これが、バラクータの着こなしがむずかしい理由である。

欧米人とくらべると相対的に上半身の面積が大きい標準的な日本人にとって、バラクータのジャケットはシンプルで装飾性が低いデザインである。

つまり、全体のシルエットのなかでシンプルなデザインの占める割合が大きくなってしまうことが、日本人にとっての着こなしのむずかしさにつながっているということだ。

結局はスポーツジャケットである

「レインウェア」であり「ゴルフジャケット」であったG9には、それぞれに特化した(一部共通化した)特長がデザインとして盛り込まれている。G9を「ドライブジャケット」として改良したものが「G4」だが、依然として「スポーツジャケット」の域はでないデザインだ。また、「ハリントンジャケット」の代名詞となったことが、バラクータが変われない原因でもある。

同時にゴルフジャケットでもあった

G9は、レインウェアでありながらゴルフプレイヤーもターゲットにしていたと書いた。もともと、屋外スポーツであるゴルフで着用するジャケットには、「レインウェア」としての機能が重宝されていたということでもある。

「G9」という名称

そもそも、「G9」という名称も、"Golf"の頭文字"G"と、ゴルフコースを構成するホール数"9"から名付けられている。

ドッグイヤーカラー

ボタンを外したときに垂れた犬の耳のように見えることから、「ドッグイヤー」と呼ばれる「カラー(=襟)」である。ボタンを留めたときにはスタンドカラーとなるため、防風性にも優れている。

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アンブレラベント

英国軍の防水コートに原型があるといわれる、雨滴が自然と下へ落ちやすい「傘」のような構造をした「ベント」である。同じくレインウェアである「トレンチコート」にも採用されていることが多い。表地には撥水性を持たせたコットンを使用していることもあり、「レインウェア」としての機能を最大限に発揮している。

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ラグランスリーブ

襟ぐりから袖下までに、ななめの切り替えが入った「袖」の構造である。衣服の着脱を容易にするため開発された構造だが、肩や腕を動かしやすいという特長から、「ゴルフジャケット」でもあるG9に採用された。実際に、「ラグランスリーブ」はサッカーなどのスポーツウェアでも採用されている。

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ゴムウェスト・袖口

着丈はウエストまでのショート丈になっていて、ウェストと袖口はともに、ゴムで伸縮させる構造となっている。ジャケットの裾や袖がばたつくことを抑え、冷気の進入を防ぐこともできるため、スポーツ性と防寒性を両立させている。

ドライブジャケットもスポーツだ

レインウェアでありゴルフジャケットでもある「G9」を、「ドライブジャケット」として改良したものが「G4」だ。G9との違いは、「裾」と「袖」のデザイン(裾は長さも)を変更していることであり、G9よりもゆったりとした印象をあたえるのが「G4」の特徴だが、総じて「スポーツジャケット」であることは変わらない。

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サイドアジャスター

G4のウエストはゴムで伸縮させる構造ではなく、サイドアジャスターによって締め付ける構造になっている。また、着丈もG9より少しだけ長く、リブがないことからも、若干ゆったりとした印象をあたえる。

カフス留め

袖口もゴムによる伸縮はなく、カフスで留める構造になっている。英国人向けにデザインされていることから、身頃の幅からサイズを選択すると、標準的な日本人には袖丈が長くゴム伸縮がないため、袖が手首よりも下がってしまう可能性がある。

ハリントンジャケットの代名詞だ

結局のところ、「G9」も「G4」も、「レインウェア」であり「スポーツジャケット」である。そして、「ハリントンジャケット」の代名詞であることが、バラクータが大きく変わることのできない原因でもある。

G9が開発された当時、世界には「ジャンパー」というものはなかった。つまり、G9は世界初のスポーツジャケットであり、現代におけるジャンパーの原型にもなっている。また、ジャンパーから派生した「ブルゾン」の原型ともいえる。

当時は革新的なデザインであったG9は、1960年代になると英国から米国へ渡り、「ハリトンジャケット」として定着した。ハリントンとは、当時米国で放映されていたドラマの登場人物で、このハリントンがG9を着用していたことから、G9はハリントンジャケットと呼ばれるようになった。

ハリトンジャケットとしては、G9を模倣してさまざまなジャケットがつくられた。しかしながら、G9がハリントンジャケットのオリジナルであることは変わらない。だからこそ、G9やバラクータも変わることができない。

現代のニーズに合わせてデザインをスリム化するなどの変更はあったが、アイコンとしての特徴は大きく変わらなかった。G4も、G9の派生モデルという立ち位置にとどめ、大きな挑戦をしていないのである。

ちなみに、日本ではハリントンジャケットのことを「スイングトップ」とも呼ぶ。しかし、スイングトップは和製英語であり、英語圏では通用しない。

バラクータで失敗しないためには?

着こなしのむずかしいバラクータだが、それでも興味があるときはどうすればいいのか?その解決方法を考える。

といっても、解決方法は「試着する」こと以外に考えられない。ほぼすべての服装にいえることだが、バラクータのような既製服については尚更である。

とくに、バラクータは欧米人向けのデザインになっていることから、サイズ感なども実際に着用してみないことには分からない。

試着をしてみて問題ないことが分かったあとは、アマゾンなどで並行輸入品を購入すればコストメリットを出すことができる。