英語の多読がなぜ「おすすめ」できるのか?

多読は、英語学習のなかでも、もっとも取り組みやすく効果的な学習方法である。多読をすることは、英語のリーディングスキル以上に得るものが大きい。今回は英語の多読についてまとめる。

多読は英語レベルだけでなくQOLも向上させる

英語学習の一環として、「多読」をおすすめする人は多い。多読とは、学習している言語で書かれた本を「多量」に「読む」ことである。

多読をすることには、英語のスキルアップ以外にもさまざまなメリットがある。たとえば、「言語」以外の知識を向上させることや、単純に読書を楽しむといったことだ。

つまり、英語の多読をおすすめするのは、英語学習に効果があるだけでなく、QOLの向上にも寄与するからだ。その理由は下記のとおりである。

  • 英語学習への効果が証明されている
  • 「読める」ことだけでメリットがある

英語学習への効果が証明されている

多読は、「リーディング」スキルの向上だけでなく、英語レベル全体の向上を期待できる。また、多読の有効性は、さまざまな研究をとおして証明されてきた。

語学力向上のエッセンスである

多読は、語学力を向上させるエッセンスだ。英語の多読をすることは、「リーディング」という基礎スキルを向上させるだけでなく、英語レベル全体の向上に期待することができる。

多読は、一見するとリーディングのための学習方法に思える。たしかに、「多読」しているときに使用される能力は「リーディング」である。しかし、多読をとおして得られる能力は、リーディングにかぎった話ではない。

たとえば、「文」や「文章」「文書」の構造から、相手へなにかを伝えるための技法を学ぶことができる。つまり、「メッセージ」「根拠」「具体例」のような、「ライティング」の構造化が自然とできるようになってくる。

読み手として、書かれている内容を理解する能力だけでなく、自分が「書き手」「話し手」になったときに必要なアウトプットの力は、実体験をもってしか学ぶことはできないということだ。

外国語の学習法として研究されてきた

多読は、外国語の「学習方法」として、その有効性を研究されてきた。そして、さまざまな研究結果において、多読は語学における有効な学習方法であるということが示されている。

下記の研究では、「学び」のある多読を実行するための投下リソースと、それに対するリターンを比較して、以下のように結論づけている。

Although they do require a significant investment in time, energy and resources on the part of those charged with managing the materials, the benefits in terms of language and skills development for the participating learners far outweigh the modest sacrifices required.
(教材を管理する側としては、時間やエネルギー、リソースの確保に多大な投資が必要であるいっぽう、参加者の言語技能の発達は、その必要な投資がささやかな犠牲と思えるほどに大きな効果があった。)*1

「読める」ことだけでメリットがある

多読をしていると、日本で出版されていない本も読むことができる(ようになる)。また、「読書」という行為で比較すると、翻訳本よりも安価に読書ができるため、コストメリットがある。

日本で出版されていない本が読める

多読ができるようになると、日本では出版されていない本、つまり、翻訳されていない本を読むことができる。なんらかの理由で翻訳されていない本や、翻訳されることが予定されているものの、いまだ未翻訳の本を早いタイミングで読むことができる。

Your Money or Your Life

「FIRE(=Financial Independence, Retire Early、財政的独立と早期退職)」という考え方の、火付け役となった本だ。

「財政的な独立」を達成するためには、どのように資産を形成していくのか?「早期退職」をしたあとにはなにが残るのか?といった、単純な「財テク」以上のことが書かれている。

とくに、資産形成は「投資」と「節約」の両輪でまわっていて、後者の「節約」の重要性は、大量消費社会に対する問題提起だというメッセージにもなっている。

Early Retirement Extreme

「FIREムーブメント」に関する書籍としては、「Your Money or Your Life」と双璧をなすほどに有名である。

「Your Money or Your Life」はFIREという考え方についての本であるが、「Early Retirement Extream」は、どちらかというと、より実践的に「節約」をする方法などが書かれている。

実践的な内容ということもあり、英文としての難易度も「Your Money or Your Life」より高い。FIREムーブメントに興味があれば、「Your Money or Your Life」を読んだあとのほうが、理解しやすいかもしれない。

Flow

生産性を左右するのは、いかに目の前のタスクに「没頭」できるかだ。この本では、没頭することを"flow"と呼んでいる。そして、意図的にflowをつくりだす方法や、flowを起こす要因が分析されている。

著者のDaniel H. Pinkは、ヒットメーカーとしていくつもの本を書いている。そのうち、いくつかは翻訳されているものの、Flowは未翻訳のため、多読の対象としておすすめできる。

Bad Blood

医療ベンチャーTheranosの、誕生から衰退までをまとめた本である。創業者であるElizabeth Holmesは、スティーブジョブズの再来といわれ、彼女自身もジョブズを意識したファッションをするなどで注目を浴びた。

しかし、なぜTheranosは破綻したのか?失敗からの学びという意味で、勉強になる一冊である。アメリカでは非常に話題になった本でありながらも、日本ではいまだ未翻訳のようだ。

Why We Sleep

昨今「睡眠」に関する本は多い。しかし、睡眠のメカニズムは完全に解明されているわけではない。つまり、あたらしい本には、あたらしく発見された事実が書かれていてもおかしくない。

アメリカでは、「睡眠」を対象とした研究が進んでいる。睡眠の質は、生活の質を向上させるための重要な要素であるからだ。「Why We Sleep」では、睡眠の気質を「遺伝的なもの」としている研究が興味ぶかい。

The Code Book

「暗号」の歴史についてと、あまり類のない分野の本である。暗号の歴史は、数学とコンピューターの発展と相関している。

「The Code Book」は、暗号を「つくる」側と「解読する」側、両者の視点から具体的な解説つきで書かれている。著者がジャーナリストということもあってか、内容のむずかしさに対して、読みやすい文章である。

翻訳されている本より安価で読める

また、多読ができると、本の購入単価を下げることもできる。一般的に、翻訳された本は原本よりも高くなることが多い。とくに、日本の出版社から翻訳される場合、紙の「質」やカバーの作り込みなど、付加価値をつけて販売しているようにみえる。

The Culture Map

「文化」の違いを、国ごとにまとめた本だ。「○○人は××だ」というような単純な話ではなく、ある国で話されている言語がどのように発展してきたかや、どのような集団で話されているのかなど、データに基づいた内容になっている。

第二言語として英語を学習するとき、日本語との最大の違いは、言語としての「コンテクストレベル」にあると考えているが、このコンテクストレベルの違いにも言及されている。

Sapiens

日本でも話題になった「サピエンス全史」である。生物学的な話からはじまり、宗教や文化など、人文、社会学を含め多様な視点から、人類とその歴史をまとめている。

翻訳本は上下巻に分かれているため割高である。原本は分厚いが、1冊にまとまっているため、本の価格だけでなく、占有スペースというコストも削減可能だ。

Outliers

「天才」や「成功者」と呼ばれる人たちに、共通した要素はあるのか?ということを、統計的に分析している。「1万時間の法則」を持ち出したことには賛否両論あるが、成功事例を分析するための切り口はおもしろい。

「The Code Book」のように、著者がジャーナリストということもあってか、文章は読みやすい。同著者では、「直感」を題材にした「Blink」なども有名である。

A Random Walk Down Wall Street

「投資」の指南書としては古典のひとつである。インデックス投資が優れているということを、細かく説明している。

「投資」に関する知識がない場合、それなりの英語力がないと読みにくいかもしれない。しかしながら、もし背景知識を理解しているのであれば、「英語」と「投資」を同時に勉強することができる。

「どのように」多読するか?

英語の多読にはふたつの方法がある。

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ペーパーバックで読む

ひとつは、ペーパーバックという「現物」を「買う」または「借りる」ことだ。

アマゾンはペーパーバックの取り扱いが多いが、それでも実際の物流が介入してくるため、在庫切れや納期遅れといった問題はある。

また、図書館などで借りることもできるが、取り扱いはけっして多くないため、読みたい本と出会える可能性は低い。

電子書籍で読む

ふたつめが、「電子書籍」を「買う」ことだ。

電子書籍であれば、物流が介入してこないため、ペーパーバックがかかえる問題はなくなる。また、「本」自体の価格は、ペーパーバックよりも安価に設定されることが多い。

電子書籍のなかでもおすすめしたいのが「Kindle」だ。Kindleは、マゾンの電子書籍プラットフォームおよびリーディングデバイスである。読み放題のサブスクリプション「Kindle Unlimited」でも洋書の取り扱いがあり、多読との相性がよい。