英語の学習にユーチューブはつかえるのか?

英語学習に役立つユーチューブ動画に、「TED」がある。TEDは、アイデアを共有するための講演会だ。講演者にはさまざまな分野のプロフェッショナルが参加しており、英語学習のよい刺激になる。そのなかでも、英語学習のエッセンスとなるような動画についてまとめる。

実践的ではないが方法論の学習やモチベーション維持には効果がある

ユーチューブを視聴しているだけでは、英語が話せるようにはならない。しかしながら、英語を学習するためのツールとしてユーチューブを使用することはできる。

そもそも、英語が話せるようになるとはどういうことなのか?英語が話せるようになったとき、どのような変化が起こるのか?実際にどのくらいの時間をかければ、英語が話せるようになるのか?

このような疑問に対する答えは、ユーチューブで視聴できるTEDから学ぶことができる。つまり、文法や会話を体系的に学ぶことには適していないが、文法や会話を学ぶための学習プロセス、方法論を学ぶことはできるということだ。

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したがって、英語の学習にユーチューブはつかえるのか?という問いに対する答えは、実践的な練習ではなく、方法論の学びや学習モチベーションの維持には効果があるといえる。その理由は下記のとおりだ。

  • 専門家が方法論を共有している
  • 成功者の声を聞くことができる

専門家が方法論を共有している

言語学のプロフェッショナルは、語学を習得するにはキーとなるポイントを抑えるべきだと言っている。また、神経科学のプロフェッショナルは、脳を再構築するためには練習が必要だが、その練習の成果(つまり、脳の再構築)は成人にも起こると言う。

半年でどんな言語も習得する

講演者のChris Lonsdaleは、心理学者であり言語学者であり、教育者でもある。そして、自身も6ヶ月で中国語を習得した学習者でもあった。彼が提唱する、語学を習得するための5つの原則および7つのアクションプランから、とくに、共感できるアクションプランを紹介しよう。

単語の組み合わせ

単語を組み合わせて文章をつくるべきだと言っている。知っている単語を組み合わせるだけでも、意思を伝達することはできる。

動詞と名詞、形容詞を各10単語知っているだけで、1,000通りのフレーズが表現できる。このように考えれば、限られたボキャブラリーであっても、意思を伝達することは可能ということだ。

日本の英語教育は、単語の暗記にかなりの重点を置いている。しかし、実際の会話では、キーとなる単語を組み合わせるだけでも、意思を伝達することは可能だ。

言語が意思伝達のツールであることを考えれば、このやり方は間違っていない。Lonsdaleも、まずは、自分の意思が伝わることが大切だと言っている。

コアへの集中

使われる頻度の高い単語を「コア」として、集中して学習するべきだと言う。これは「単語の組み合わせ」の具体化でもある。単語を覚えるならば、コアとなる単語に集中してリソースを投下すべきということだ。

英語の場合、日常会話の85%は1,000単語で、98%でも3,000単語でカバーできるようだ。すなわち、英語は3,000単語を覚えていれば、日常会話は十分できるようになるということだ。

日本人が、むずかしい英単語を知っているのに英会話ができないといわれる原因は、ここにある。どれだけ多くの英単語を暗記していても、「コア」から外れた単語では英会話はできない。

コアへ集中するためには、実際の会話や読書から学ぶといい。人によって話し方や語彙力には偏りがある。つまり、さまざまな作者、話者と接することで、その共通項である「コア」を学ぶことは有効だ。

単語とイメージの連結

単語はイメージと直結して記憶するべきだと言っている。母国語との関連づけをするべきではなく、単語を聞くとそのイメージが浮かぶようにするべきということだ。

なぜなら、インプットした単語を母国語に対応させて記憶するには、反復作業が必要で非効率だからである。

これも、日本の英語教育がかかえる問題のひとつだ。英単語はすべて、日本語の単語と対応して暗記するように学ぶ。しかし、これではいつまで経っても瞬間的にアウトプットすることもできず、英会話をする際にはボトルネックになる。

脳は変わる

Lara Boydは神経科学者である。脳科学という視点から、「学習」することで起こる脳の変化について解説している。この講演のタイトルは"After watching this, your brain will not be the same"であり、講演における主張をそのままあらわしている。

脳の再構築は行動が主体

なにかを習得するとは、脳が変化をするということだ。脳へ変化をうながす唯一の手段は、行動を起こして学ぶことだけだと言う。

あたらしい事実や方法論を学ぶことによって、人の脳は変わる。これを「神経可塑性」というが、これまでは、成人に神経可塑性は起こらないと考えられてきた。しかし、最新の研究では、成人の脳にも著しい変化が起きていることが分かってきた。

なにかの練習を続けているとき、ある日突然うまくできたように感じることがある。しかし、翌日には同じように再現することができない。この原因は、うまくできたときは一時的に脳がニューロン間でシグナルを増加させたからだ。

この一時的なシグナル増加は、脳の構造を変化させるまでには至らなかったことを示している。脳を変化させるには、このような経験を何回も試行する必要がある。つまり、脳を構造的に変化、再構築するには、時間がかかるということである。

神経可塑性には練習が必要

神経可塑性を促進することができれば、脳を再構築することができる。しかし、神経可塑性は薬剤などで促進することはできないと言う。

神経可塑性には、行動をともなう膨大な量の練習が必要だということだ。練習の過程で難度が上がることにより一層の努力が必要になると、脳ではより多くの変化が起きることが分かっている。

したがって、脳が変化するには、時間だけでなく時間とともに負荷が大きくなる練習が必要だということだ。しかし、この原則を守っていれば、成人でさえも脳を再構築することはできるのだ。

成功者の声を聞くことができる

Josh Kaufmanは「1万時間の法則」に疑問をいだき、わずか20時間でも、なにかを習得することができることを証明した。

最初の20時間

"The First 20 Hours"の著者であるJosh Kaufmanは、この本のエッセンスをTEDで講演している。

1万時間の法則という嘘

Kaufmanは、「1万時間の法則」はかならずしも成り立たないと言う。この「1万時間の法則」とは、なにかを習得するためには、1万時間という時間が必要だという主張である。

そもそも、1万時間の法則は心理学者のAnders Ericssonが、活躍するスポーツ選手や演奏家を対象に、練習と成果についてをまとめた研究結果に由来する。この研究結果では、対象となったスポーツ選手や演奏家がなにかを習得するまでにかかった時間が、平均で約1万時間であったということだ。

これに対して、Kaufmanの主張はつぎのようなものだ。まず、Ericssonの研究で対象となっているのは、世界のトッププレイヤーである。つまり、一般人が求める成果とは異なる。また、もともとの研究結果でも、なにかを習得するために1万時間が必要だと結論づけているわけではない。

したがって、「1万時間の法則」というものが、間違った解釈といっしょに世間へ広まってしまったということだ。これには、Malcolm Gladwellの"Outliers"がヒットしたことも影響しているだろう。

Kaufmanの主張には共感できる。はじめから習得することを諦めて挑戦をしないこと、挑戦に尻込みすることほど、非生産的なことはない。

最初の20時間にもっとも成長

主題である「最初の20時間」とは、なにかの学習をはじめたとき、もっとも成長することができる期間だと言う。

さまざまな文献を読み漁ったKaufmanは、「最初の20時間にもっとも成長する」ということを発見した。しかし、がむしゃらに20時間を投下するわけではない。計画的かつ集中的に学習してこそ、20時間の成果が実現するということだ。4つの具体施策のうち、3つを紹介しよう。

  • スキル分解
  • 自己修正
  • 最低20時間

習得したいスキルを分解する。スキルとは、大抵はさまざまなスキルの集合体である。スキルを分解することで、達成したい目標を具体化できる。

間違いは自分で修正する。情報収集→練習→自己修正というプロセスをまわせるだけの知識は、情報として集めるべきだということだ。

最低でも20時間は学習する。あたらしい取り組みはすぐに成果があらわれるものではない。しかし、はじめから最低20時間はやると決めることで、成果があらわれないことへの苛立ちを乗り越え、さらなる学習への投資となりえる。

実践的な学習をするには?

英語学習の方法論はユーチューブでも学ぶことができるが、実践的な学習はどうすればいいのか?ユーチューブでの学びを活かせる場所を考える。

日本の英語教育では、「会話」ができるようになることに重点を置いていない。しかし、TEDで視聴できる英語関連の講演の多くは、英語を習得することは「会話」ができることだという前提で話が進む。

幸いにも、現在は気軽に英会話をはじめることができるサービスがある。そのひとつがオンライン英会話である。ユーチューブでの学びを試すには適したサービスであることから、ぜひ挑戦してみてほしい。