ジャケパンは「今の」ビジネスマナーに反しても変化に対応できる

ジャケパンはカジュアルな服装である。「今の」ビジネスマナーはカジュアルを認めない。ジャケパンには持続可能性がある。したがって、ジャケパンは「今の」ビジネスマナーに反しても変化に対応できる

ジャケパンはカジュアルな服装である

服装をマナーで分けると「フォーマル」と「カジュアル」になる。ジャケパンは「フォーマル」ではない。したがって、ジャケパンはカジュアルな服装である

服装をマナーで分けると「フォーマル」と「カジュアル」になる

服装をマナー(プロトコル)で分けるとき、最も簡単な分け方は「フォーマル」と「フォーマル以外」である。このとき、フォーマル以外を「カジュアル」と定義すれば、服装はフォーマルまたはカジュアルのどちらかになる。

フォーマルな服装には「礼装」がある。例えば、最も格式の高い礼装である正礼装には「モーニング」と「ホワイトタイ」があり、準礼装には「ディレクターズスーツ」と「ブラックタイ(タキシード)」がある。

略礼装は「ブラックスーツ」または「ダークスーツ」であるから、それ以外の服装は全てカジュアルになる。英語の"casual"には「略式の」といった意味があるが、略礼装は礼装の一つである。

服装を分けるときに分類が難しいのが、現代のスーツ全般である。略礼装である「ダークスーツ」に明確な定義がないことから、明るめのネイビースーツをダークスーツに含めるかどうかは検討の余地がある。

現代スーツを「ビジネス」という枠組みに分けてしまえば収まりがいい。フォーマルシーンでも着られる礼装と、フォーマルシーンでは着られないがビジネスでは着られるスーツ、フォーマルシーンでもビジネスシーンでも着られないそれ以外の服装といった分け方だ。

しかし、ビジネスシーンで着られるかどうかは、そのビジネスが行われる業界の慣習によるところが大きいため、フォーマルとカジュアルに分けた方が議論はしやすい。

ジャケパンは「フォーマル」ではない

礼装には明確な定義があるため、ジャケパンはフォーマルではない。「ジャケットとパンツを別の生地で仕立てたもの」を広義のジャケパンと考えるなら、モーニングやホワイトタイもジャケパンになるが、一般的に礼装は「礼装」であり、ジャケパンとはいわない。

実際、フォーマルな服装は「正礼装」「準礼装」「略礼装」のいずれかであり、正礼装と準礼装はジャケットとパンツが別の生地で仕立てられている。しかし、これらは「礼装」でありジャケパンではない。

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「今の」ビジネスマナーはカジュアルを認めない

今のビジネスマナーはスーツしか認めない。スーツは「共地」で作るからスーツである。昔はジャケパンも認められていた。したがって、「今の」ビジネスマナーはカジュアルを認めない

今のビジネスマナーはスーツしか認めない

今のビジネスマナーが「マナー」として定着したのは20世紀のことだ。ビジネスで着る服装に「ラウンジスーツ」が選ばれたことが、今でもビジネスマナーとして守られている。

今のスーツにはモノ(作業着)としての価値よりも、信頼感やプレゼンスを与えるコトとしての価値がある。だから、人はスーツを捨てることができない。

元々、礼装は貴族階級に着られていた服装だが、略礼装であるラウンジスーツが労働階級にまで普及したのは、工業化によって生活の質が改善したからだろう。

工業化で労働時間が短くなると余暇にかける時間が長くなる。そして、商取引の機会が増えてビジネスのあり方も変わってくると、それまでの作業着に代わる服装が求められた。

そこで設備投資による生産性の向上ができると、注文服であった礼装も機械によって大量生産ができるようになった。服装を大量生産するときは、ジャケットやパンツを別の生地から作るよりも、同じ生地から作る方が製造原価が下がる。

つまり、工業化の流れとラウンジスーツの普及は同じ好循環の中にあったため、ラウンジスーツは貴族階級だけでなく労働階級にまで広く普及して、今でも使われている。

スーツは「共地」で作るからスーツである

"suits"には「一そろい」という意味がある。ラウンジスーツは、共地で作るからラウンジ「スーツ」といわれる。

「セットアップ」はスーツと似ているが、共地で作られているわけではないからスーツではない。セットアップは別の生地で作られたジャケットとパンツを組み合わたものだ。

だから、「セットアップスーツ」という言葉には矛盾がある。「セットアップ」と「スーツ」は反対の意味を持つから、ジャケットとパンツが別の生地で作られたスーツライクな服装である。

昔はジャケパンも認められていた

19世紀の後半にラウンジスーツが生まれるまで、全ての礼装は「広義の」ジャケパンであった。貴族階級の人たちは、一そろいの服装は労働階級の作業着と考えていたからだ。

ラウンジスーツが生まれるまではジャケットとパンツを同じ生地で作るという概念はなかった。それ以前に、服装の構成自体もバラバラであったため、17世紀に初めて「ジャケット」「ウエストコート」「スラックス(パンツ)」のスリーピース構成に統一された。

「モーニング」や「ホワイトタイ」といった正礼装も、ジャケットとパンツは別の生地で作られている。しかし、礼装が簡略化されて労働階級へも普及する中で、ラウンジスーツは「一そろいの礼装」という新しいマナーをつくった。

服装の「マナー」は時間がたつと変わるものだから、将来的に今のビジネスマナーが変わっていてもおかしくはない。

成長する産業が「工業」から「サービス」に変わり、人が重視する価値も「モノ」から「コト」に変わってきた。これからの成長産業が「情報」に変わるなら、人の価値観が新しい何かに変わることは十分にあり得るだろう。

ジャケパンには持続可能性がある

スーツやジャケパンは少額から作れるようになった。スーツとジャケパンの価格差はなくなっている。ジャケパンはスーツよりも長持ちする。したがって、ジャケパンには持続可能性がある

スーツやジャケパンは少額から作れるようになった

20世紀から21世紀にかけて国際物流には大きな変化が起きた。コンテナ船による海上輸送が拡大して、モノそのものやモノの原材料の輸出入にかかるコストが大幅に削減されたのである。

例えば、スーツやジャケパンの主要な原材料は「ウール(羊毛)」である。ウール生地(ウールで作られる生地)は日本でも作られるが、ウールそのものは99%以上が輸入品である。

農林水産省によると、国内のウール生産量はわずか49tであり、国外からのウール輸入量が100,000tであるから、国内ウール生産量は国内ウール需要量の0.05%しか満たせていない。

この点から、スーツやジャケパンの価格は国際物流の影響を大きく受けていることが分かる。

それから、コンテナ船は船舶の巨大化によって輸送効率を飛躍的に伸ばしている。輸送効率を上げることは物流費を下げることだけでなく、輸入品が日本に届くまでの納期も大きく改善している。

スーツやジャケパンの原材料の納期が改善することで、日本のスーツ・ジャケパン工場は需給バランスを調整しやすくなるため、スーツやジャケパンの価格にも影響する。

スーツとジャケパンの価格差はなくなっている

スーツやジャケパンは原材料の調達コストが下がっただけでなく、仕立屋のファブレス化と製造工場の水平統合によって、その価格差もなくなってきている。

昔の仕立屋は、客の注文を聞いて実際に服装として仕立て客に納品するまでが仕事であった。しかし、今の仕立屋は、客の注文を聞くところと客に納品するところだけが仕事で、服装を仕立てるところは外注していることも少なくない。

しかも、この外注先となる注文服の製造工場は、工場同士が水平統合することで製造効率を上げて製造コストを削減することができる。例えば、「○○テーラー」と「△△スーツ」で注文した服装が、実は同じ工場で作られていることもあるだろう。

これでは服装の差別化ができなくなるが、本来はスーツよりもジャケパンの価格の方が高い場合であっても、製造の集約でスケールメリットを出して価格を下げることができる。

ジャケパンはスーツよりも長持ちする

スーツは共地で作るから「スーツ」なのであれば、ジャケットまたはパンツだけがすり切れてしまうとそのスーツは着られなくなる。しかし、ジャケパンは初めから一そろいではないから、ジャケットまたはパンツがすり切れても着ることができる。

実際、スーツでも同じ生地を手に入れたり、ジャケットやパンツの余分な生地を使えば修理することはできる。しかし、希少な生地を使っているとそうはいかない。

輸入生地は毎シーズンごとに新作を出すことも多いから、同じ生地が手に入らないこともある。

それから、ほとんどのスーツは「略礼装」であるから、使い古した生地や修理の跡に「味」が出ることはない。しかし、ジャケパンにはそれらもカジュアルな味とする寛容さがある。

環境対応といった点では、リサイクル材を使った略礼装が生まれるとすれば、一そろいの服装を作ることも難しくなる。しかし、ジャケパンであれば一そろいではないのが普通だから、ジャケットやパンツにバラツキが合っても受け入れられることだろう。