ジーンズを履かない人が増えた理由は服装の合理化が進んだからだ

ジーンズは合理的だからファッションになった。また、プレミアムジーンズが終わりの始まりになった。そして、ジーンズは現在もっとも合理的な服装ではない。したがって、ジーンズを履かない人が増えた理由は服装の合理化が進んだからだ

ジーンズは合理的だからファッションになった

デニムはその合理性から作業着として使われた。作業着がカウンターカルチャーの象徴になった。カウンターカルチャーがファッションになった。よって、ジーンズは合理的だからファッションになった

デニムはその合理性から作業着として使われた

デニムはジーンズに使われる「生地」で、デニムの素材には「コットン」が使われる。コットンはジーンズ以外の服装にも広く使われていることから分かるように、素材の利点が多く生産効率が高い。

コットンには高い通気性や吸水性、耐久性といった特徴があり、服装(生地)が素材に求める要件を満足する。それから、コットンは染色しやすく加工も容易なため、大量生産との相性が良い。

ジーンズが爆発的に普及した理由は、アメリカで作業着としての合理性が認められたからだといえる。しかし、デニムはフランスで生まれた生地であり、ジーンズはデニムを使ってイタリアでつくられた服装だ。

生地はフランス、服装はイタリアの発祥だが、このコットンの利点を最大限に活かしたジーンズを世界に広めたのはアメリカであり、のちに世界最大のジーンズブランドになる「リーバイス」だ。

f:id:findep:20210923084348j:plain

作業着がカウンターカルチャーの象徴になった

ジーンズは1950年代まで作業着として着られていた。しかし、当時アメリカで最盛期を迎えていたハリウッド映画の影響から、普段着としても着られるようになる。

とくに、影響を強く受けたのが若者であり、若者が持つ大人や社会への不満を表現した映画、音楽で活躍するスターがジーンズを着用したことから、ジーンズはカウンターカルチャーの象徴となった。

それから、ジーンズは作業着、つまり、男性労働者の服装という固定概念をくつがえすように、女性からもジーンズは支持されるようになる。

女性向けジーンズは、リーバイスが1930年代からつくっている。だが、女性向けジーンズが市民権を得たのは1950年代であり、男性と同じようにカウンターカルチャーの影響が大きい。

カウンターカルチャーがファッションになった

若者を中心に流行したジーンズも、若者が大人になるにしたがって社会全体に普及した。結果として、カウンターカルチャーとして始まったジーンズはファッションとして大衆化する。

1970年代になると、作業着としてのジーンズづくりから始まったブランド(リーバイスなど)以外にも、ファッションとしてのジーンズをつくる「ディーゼル」「リプレイ」が誕生する。

マーケットのニーズを満たすために生まれたジーンズは、カウンターカルチャーの象徴として使われるようになり、そこに生まれた新しいニーズを満たすためにジーンズが進化したともいえる。

ディーゼルやリプレイの誕生は、ジーンズをカウンターカルチャーからメインカルチャーの服装へ移行させるきっかけにもなった。

カルバンクラインがデザイナージーンズを発表してからは、ヨーロッパのブランドもデザイナージーンズを開発し、ジーンズはファッションのメインとなっていく。

プレミアムジーンズが終わりの始まりになった

プレミアムが流行するとトレンドは終わる。ジーンズもプレミアムジーンズが流行した。ゆえに、プレミアムジーンズが終わりの始まりになった

プレミアムが流行するとトレンドは終わる

業界のプレイヤーすべてが「プレミアム商品」を推すということは、業界の売れ行きが鈍化しているということである。差別化しなくても売れる業界なら、在庫リスクをつくって差別化する必要がないからだ。

売り手の視点でプレミアム商品の意味を考えると、プレミアム商品は差別化の手段にほかならない。つまり、差別化をしなければ売れ行きにマイナスの影響を及ぼす。

想定できるパターンはふたつある。ひとつは、商品がコモディティ化してしまって、商品単価が下がっている。だから、商品単価を上げるためにプレミアム商品をつくる。

ふたつめは、製造コストの削減が頭打ちになり、商品の利益率が改善できない状況だ。品質の向上を伴わない値上げは受け入れられないから、商品の供給量を増やすかしない。

しかし、商品全体(=業界)の売れ行きが鈍化しているとき、商品の供給量を増やすことはできない。そのため、プレイヤーは地道な差別化をして生き残りをはかる。

地道な差別化だけでは商品に差がなくなる。そこで大きく方向性を変えるのが「プレミアム商品」であり、新しい価格と価値の創造である。つまり、ふたつのパターンも、問題の本質は業界の不況にある。

ジーンズもプレミアムジーンズが流行した

アメリカでは1990年代の終わりに「プレミアムジーンズ」が生まれた。プレミアムジーンズは通常のジーンズの三倍近い価格をつけたが、好景気の影響で売れ行きが好調だった。

日本では2000年代になってプレミアムジーンズが流行した。そもそもプレミアムジーンズとは、1980年代ごろからアメリカ国外で製造され始めたジーンズを、再びアメリカで製造したことで生まれた。

ジーンズの製造拠点をアメリカ国外へ移したのは、製造コストの削減が目的であった。それをアメリカ国内で製造すれば、当然価格は跳ね上がることになる。

それに加えて、デニムを日本やイタリアでつくられた生地にすることで、製造コストの増加分を原材料コストの増加分で理由づけするようになった。

アメリカのセレブがプレミアムジーンズを支持したことからトレンドになったが、リーマンショックの影響もありプレミアムジーンズのトレンドは終わった。

プレミアムジーンズのトレンドが終わったことで、ジーンズのトレンドも終わった。しかし、トレンドは周回的にくりかえすものだから、再びジーンズのトレンドが生まれる可能性は否定できない。

ジーンズは現在もっとも合理的な服装ではない

日本はデフレから商品単価が下がっている。デフレの裏側には製造の合理化が影響する。服装の一本化は合理化が進んだ結果である。よって、ジーンズは現在もっとも合理的な服装ではない

日本はデフレから商品単価が下がっている

先進諸国では継続的に物価が上昇するインフレが進むなか、日本では反対にデフレが進行している。とくに、アパレル業界はユニクロの登場以降、商品単価の下落が著しい。

総務省「家計調査」によると、衣服一枚あたりの価格は、1990年の6,848円から2019年の3,202円と、約30年で半分以下にまで下落している。

この下落にユニクロが大きなプレゼンスを発揮したことはいうまでもない。給与水準が30年前から上がっていない日本の消費者にとって、ユニクロは服装の消費に対する価値観を変えるきっかけになった。

一方、服装の供給量は増加していることから、「大量生産」「大量消費」が拡大しているともいえる。大量生産、大量消費の観点では、アパレル業界へ持続可能性の追求が要請されている状況だ。

デフレの裏側には製造の合理化が影響する

アパレル業界で継続的に商品単価が下落するデフレは、ユニクロの価格破壊が引き金となった。しかし、ユニクロはアパレル業界を破壊するために生まれたのではなく、製造の合理化を追求しただけだ。

実際、ユニクロは安くて耐久性の低い服をつくっているわけではない。ユニクロは長く着られる服をつくることを目標にしていて、長く着られるための工夫をしていることがイノベーションになっている。

たとえば、無難なデザインはトレンドに左右されず、いつまでも長く着られる。だから、商品のライフスパンが長く、同商品の大量生産が可能だ。そのため、製造コストを下げて、その分を品質へ還元できるため、耐久性が上がる。

ユニクロの大量生産が大量消費をもたらしているわけではない。大量消費は消費者の意識づけの問題であり、長く着られる服を長く着ない消費者を教育するために、"RE.UNIQLO"といった活動が生まれた。

リユースやリサイクルをとおして、大量生産を合理化することがユニクロが抱える課題である。大量生産なくしては、ユニクロのコストパフォーマンスを再現することはできない。

ジーンズ離れは合理化が進んだ結果である

結局のところ、現代にはジーンズ(デニム)を超える合理的な服装(生地)がある。ジーンズよりもストレッチ性がありながらも耐久性が高いパンツだ。

しかも、ジーンズはファッションとして大衆化したとはいえ、カジュアルウェアを代表する服装だ。近年はビジネスとカジュアルの境界があいまいになっていることから、ジーンズはこの条件に合理性を持たない。

それから、アパレル業界はラグジュアリーブランドと製造小売(≒ファストファッション)に二極化し、中間層は排除されつつある。ジーンズをつくる有名ブランドの多くがこの中間層に位置している。

つまり、ジーンズよりも商品として優れたパンツが出てきただけでなく、ジーンズをつくることを専業にしたブランドでは、ブランドの価値が下落している。商品とブランドの価値はスパイラル的に負の連鎖を起こしているのが現状だ。