鎌倉シャツは評判どおりによいシャツなのか?

鎌倉シャツは、リーズナブルで高品質なシャツの製造・販売をすることで有名だ。しかし、近年は価格設定やラインナップにも変化が起こった。今回は鎌倉シャツの愛称で親しまれる、メーカーズシャツ鎌倉についてまとめる。

現状の廉価シャツ以上オーダーシャツ未満では敵なし

シャツは、人により求める水準が変わるアイテムのひとつだ。たとえば、あくまでも下着と考えて使い捨てる人がいれば、スーツと同じ水準までフィッティングや素材にこだわる人もいる。

鎌倉シャツの特長は、フィッティングや素材にはこだわりつつも、低価格であるということだ。とくに、定番の「ベーシックシャツ」は、税抜き5,000円台という低価格を実現している。

シャツは、既製品からオーダーまでの幅広い価格レンジになっている。ここで、鎌倉シャツをひとことで表すならば、現状では廉価シャツ以上オーダーシャツ未満のポジションでは敵がいないといえる。その理由は下記のとおりである。

  • より安価な製品よりも品質が高い
  • オーダー品質は下げず価格は安い
  • 将来的には懸念事項がある

より安価な製品よりも品質が高い

胸ポケットをつけないことやコットンだけでつくることなど、シャツを「下着」として割り切ることが差別化につながっている。また、オーダーレベルに計算されたシルエットとサイズ感により、シャツが立体的につくられていることも分かる。

下着として割り切っている

鎌倉シャツの「シャツ」を見ていて感じることは、シャツ本来の「下着」という役割に割り切っていることだ。

鎌倉シャツの「シャツ」には、一貫して胸ポケットがない。この特徴は、「下着」という役割を考慮すると至極当然の結果である。

実際に、欧米でシャツは「下着」であり、スーツの下に着用するものだ。したがって、胸ポケットは機能性を重視したカジュアル化の象徴でもある。

日本のシャツメーカーにはこの考えが抜けていることが多く、この割り切り(≒こだわり)は、差別化の要素にもなっている。クラシックなスーツスタイルにおいて、シャツの胸ポケットは不要である。

素材にこだわっている

また、鎌倉シャツの素材へのこだわりは異常だ。一部の製品を除いて、シャツのほとんどはコットンだけでつくられている。

なぜシャツをコットンでつくるのか?といえば、やはり、「下着」であるからだといえる。「下着」という特性上、シャツには吸水性が求められる。また、肌に直接ふれるからこそ、肌ざわりも大切な要素だ。

本来の下着という役割から「吸水性」や「肌ざわり」ということを意識すれば、シャツの素材はコットン以外には考えられない。これは昔からの伝統でもある。

現代のシャツには、形状安定性をもたせるためにコットン以外の素材でつくられるシャツが多い。そんななか、胸ポケットがなく、コットン100%でつくられた「オーダー以外」のシャツを探すだけでも、鎌倉シャツのほかに選択肢は見えてこない。

伝統的で立体的なスタイルだ

鎌倉シャツは、とにかく伝統的でクラシカルなシャツをつくることが得意だ。シルエットやサイズ感は、伝統的かつ立体的につくられている。

フィッティングには、「スリムフィット」と「クラシックフィット」の2種類がある。いずれのフィッティングも、サイズごとに袖丈や身頃の長さがしっかりと調整されている。

シャツは袖丈と首まわりからサイズを選ぶ。鎌倉シャツの場合、本当にこの2点だけで、シルエットの違和感がない。裄丈やアームホールまで細かく計算されているからだ。

また、立体的につくられていることが、アイロンがけをするとよく分かる。その反面、どうしてもアイロンがけに時間はかかるものの、平面的なプレスだけでは仕上がらないことこそ、良いシャツの証ともいえる。

オーダー品質は下げず価格は安い

鎌倉シャツは、型紙から起こすオーダーシャツと比べても、遜色のないサイズ、デザインを揃えている。そして、なにより注目すべきことは、この品質のシャツをオーダーシャツの半額以下で製造・販売していることだ。

サイズの豊富さは業界でも随一だ

鎌倉シャツは、オーダーシャツと比べて遜色がないほどにサイズが豊富だ。

「クラシックフィット」と「スリムフィット」という2種類のフィッティングに対して、袖丈と首まわりの組み合わせが15通りある。つまり、2×15=30通りの組み合わせから、サイズを選ぶことができる。

さらに、袖丈と首まわりの組み合わせには、細身で腕が長い人、つまり、袖丈は長いが首まわりが細い人にも合うようなサイズ設定もされている。そのため、オーダーシャツのように型紙から起こさなくても、合うサイズがないということはほとんどない。

デザインの豊富さも遜色がない

また、オーダーシャツが生地や襟のデザインを選んでシャツを仕立てることができるように、鎌倉シャツも豊富な生地と襟のデザインを揃えている。

生地は、定番のブロードクロスからオックスフォードだけでなく、ドビーやサテンなどもある。また、襟のデザインも、レギュラーからカッタウェイ、ボタンダウンなど種類が豊富だ。

当然のように、カラーや柄のバリエーションも豊富である。これだけの種類があれば、半端にパターンオーダーなどをする必要もない。

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価格はオーダーの半額以下だ

そして、鎌倉シャツ最大の特長は、「ベーシックシャツ」が5,000円台で購入できるリーズナブルな価格設定にある。

型紙から起こすオーダーシャツは、最低でも1万円以上が相場である。鎌倉シャツの「ベーシックシャツ」は、オーダーと比べても遜色がないフィッティングやデザインを実現しつつ、その半分の価格で購入することができる。

これは、鎌倉シャツの想いである「上質なシャツを低価格で提供したい」という文言に集約された、ポリシーやミッションの具体化にほかならない。

将来的には懸念事項がある

鎌倉シャツの代名詞「ベーシックシャツ」は、近年度重なる値上げにさらされている。また、製品多角化は、本業であるシャツの製造・販売を強化するものとは思われない。さらには、コットンへのこだわりを捨てイージーケアシャツを導入するなど、高品質かつ低価格なコットンシャツの製造・販売という特長の、持続可能性には懸念がある。

値上げが期待値を下げている

オーダー並の品質で低価格なシャツを製造・販売してきた鎌倉シャツだが、近年は低価格シャツの代名詞である「ベーシックシャツ」を筆頭に、値上げをしていることが懸念事項である。

鎌倉シャツは、値上げに際して品質を下げるようなことはしなかったが、残念ながら、品質を上げることもなかった。むしろ、品質はすでに必要十分な水準にあった。

そして、日本のアパレル市場をみると、ユニクロなどのSPAが台頭してきたことによって、デフレ傾向にあることが分かる。鎌倉シャツもSPAだが、ユニクロのように衣服全般を取り扱う企業に対して、スケールのメリットを活かしにくいことは事実だ。

結果として、「ドレスシャツ」市場におけるコストリーダーシップ戦略は捨てざるを得なかったものと推測する。

実際に、3年前の「ベーシックシャツ」は税抜き5,000円だった。しかし、現在は税抜き5,900円になっている。3年前であれば1万円で2枚買えたものが、品質は変わらずインフレ傾向にもない日本で買えなくなってしまったことは、消費者にとっては残念な意思決定だ。

製品の多角化が進んでいる

また、「シャツ」以外の製品展開が増えていることも懸念事項だ。この方向性は以前から少しずつ拡大してきてはいたが、いまやビジネスウェア全般を取り扱うまでになっている。

ユニクロがビジネスウェアへも製品を展開してきた以上、鎌倉シャツとしても多角化の道へ進まざるを得なかったのかもしれない。しかしながら、ビジネスウェア全般にまで多角化が進むと、「鎌倉シャツ」というブランドに疑問が芽生えるのも事実だ。ブランドの価値というのは重要である。

というのも、鎌倉「シャツ」という愛称がある以上、ジャケットやパンツの購買層が、ブランド価値を見いだせるかが疑問である。また一方で、シャツを専門に取り扱うからこそ活きていたブランド価値が、安価なビジネスウェアを販売する低価格アパレルブランドになってしまう懸念もある。

また、あきらかにシャツとは製造プロセスや形状が異なる革小物や靴、傘などの取り扱いが、店舗の在庫スペースやサプライチェーンを最適化するとは思えない。このような多角化の弊害として、本業であるシャツの製造・販売にわるい影響がでないことを祈る。

イージーケアシャツを始めた

市場のニーズとしては、シャツの形状安定性(≒イージーケア)需要が高まっていることは事実だ。そして、コットンにこだわる鎌倉シャツからも、ついに、イージーケアシャツが登場した。

イージーケアの上市にあたり、鎌倉シャツは「TRAVELER」というシリーズを立ち上げた。「TRAVELER」は、コットン100%へのこだわりは捨てて、新たに開発した「パルパープレミアム」という素材を使用している。

「パルパープレミアム」は、ポリエステルの芯をコットンで包み込むような構造の糸である。「肌ざわりがコットンと変わらない」というこだわりは、鎌倉シャツらしいとはいえる。

しかし、コットン100%でないことは事実である。また、価格も税抜き6,900円と、「ベーシックシャツ」よりも高価である。化繊シャツから選ぶなら、ユニクロはこの1/3の価格でシャツを販売している。

コットンシャツを作り続けてもらうには?

鎌倉シャツには、これまでのように高品質で低価格なコットンシャツをつくり続けてほしい。このように願うユーザーが、少ならからずいるはずだ。ユーザーとしてそのためにできることは、多くの人に鎌倉シャツを利用してもらうことだ。

コットンシャツを購入する

これまで鎌倉シャツでシャツを購入したことがなければ、ぜひ購入してみてほしい。イージーケアやジャケットでもいいが、やはり、「ベーシックシャツ」こそ鎌倉シャツの代名詞だ。

「ベーシックシャツ」が売れなくなってしまったら、鎌倉シャツはこれまでのブランド価値を守ることができなくなるだろう。

ふるさと納税でお得に買う

消費者にとって嬉しいことは、鎌倉シャツが「ふるさと納税」に参加していることだ。「鎌倉」シャツという愛称のとおり、神奈川県鎌倉市に由来している。

鎌倉市への納税と引き換えに、返礼品として寄付額に応じたギフトカードを入手することができる。たとえば、70,000円の寄付をすると、21,000円のギフトカードが入手できる。21,000円のギフトカードであれば、「ベーシックシャツ」が3枚購入できる。

寄付金(鎌倉市) 返礼品(ギフトカード)
20,000円 6,000円
28,000円 8,400円
40,000円 12,000円
70,000円 21,000円
134,000円 40,200円

シャツは「下着」という特性上、修理をして使い続けることは想定されていない。どれだけ「ベーシックシャツ」が低価格であっても、5枚購入すれば3万円の支出となるため、このような制度があるのはありがたいことだ。