ケンフォードのKB48を履き捨てるならジャランやスコッチを買おう

ケンフォードのKB48は安価な定番である。また、履き捨てることが最善の策になってしまう。そして、長い目で見るとジャランやスコッチは安い。したがって、ケンフォードのKB48を履き捨てるならジャランやスコッチを買おう

ケンフォードのKB48は安価な定番である

ケンフォードはリーガルのサブブランドだ。ケンフォードはリーガルよりも買いやすい。KB48はケンフォードを代表するモデルだ。よって、ケンフォードのKB48は安価な定番である

ケンフォードはリーガルのサブブランドだ

ケンフォードのウェブサイトには「リーガルの品質や履き心地を正統に受け継ぎながら、・・・」といったことが書かれている。つまり、ケンフォードとリーガルのコンセプトは同じだ。

ケンフォードのブランドコンセプトは、リーガルがつくる伝統的な革靴をより多くの消費者へ届けることだ。つまり、リーガルの革靴を否定せず、リーガルコーポレーションとしてターゲットの拡大を考えていることが分かる。

リーガルとケンフォードの関係は、通信キャリアでいえばauに対するUQ mobileや、SoftBankに対するY!mobileといったところだ。菅内閣からの要求で誕生したahamoやpovo、LINEMOは、メインブランドの料金プランという位置付けのため、立ち位置が異なる。

通信キャリアのようなサービスではなく、モノを対価に利益を得るリーガルにとっては、リーガルブランドとして(リーガルの品質で)低価格な革靴を導入してしまうと、高価格の革靴から得る利益を取り戻す方法がなくなってしまう。

ケンフォードはリーガルよりも買いやすい

それでは、具体的にどのような方法でケンフォードがリーガルコーポレーションのターゲットを広げているのかというと、リーガルに対して30〜50%ほどの価格設定にある。

リーガルはブランド内で価格の振れ幅が大きいが、グッドイヤーウェルト製法の革靴は3.5〜4.5万円はする。一方、ケンフォードの革靴は1.2〜1.7万円とリーガルよりも圧倒的に低価格だ。

ケンフォードが「リーガルの品質や履き心地を正統に受け継ぎながら」も、リーガルより価格を下げることができる理由は、革靴の製法によるところが大きい。

ケンフォードの革靴はセメント製法でつくられている。セメント製法はアッパーと底材を接着剤で貼り合わせるため、構造が単純で大量生産に向く。だから、グッドイヤーウェルト製法の革靴よりも安価に仕上げることができる。

KB48はケンフォードを代表するモデルだ

KB48は「内羽根」「ストレートチップ」の革靴だ。内羽根のストレートチップはもっともフォーマルな革靴であるが、ビジネスシーンで使われることが多いことから、ビジネスの定番にもなっている。

KB48のキャッチコピーも「ブランドコンセプトを100%体現するドレスシューズ」となっており、ケンフォードが自信を持って販売しているモデルといえる。

内羽根やストレートチップについて少し補足をする。そもそも革靴は「紐靴」と「それ以外」に分類できる。紐靴とそれ以外では、紐靴のほうがフォーマルだ。

紐靴のレースステイ(紐を通す「アイレット」があるところ)は「内羽根」と「外羽根」に分類でき、内羽根のほうがフォーマルである。

紐靴のトゥ(つま先)のデザインでは、「ストレートチップ」のほかに「パンチドキャップトゥ」や「プレーントゥ」がある。ストレートチップはこれらのなかでもっともフォーマルであるとされる。

以上が、内羽根ストレートチップが革靴でもっともフォーマルであるとされる理由だ。

履き捨てることが最善の策になってしまう

メンテが導入コストを上回るなら新調する。セメント製法はソール交換ができるが高い。ゆえに、履き捨てることが最善の策になってしまう

メンテが導入コストを上回るなら新調する

革靴のメンテナンスといえば、ソール(底材)の交換を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、ソールの交換にかかるコストで革靴そのものが買えるなら、わざわざソールを交換する人は多くないはずだ。

革靴のソールをメンテナンスするときは、ヒール(かかと)やトゥだけでも2,000〜3,000円かかる。オールソール(ソール全体の交換)になると、ラバーソールでも10,000円以上になる。

しかも、革靴を履いていて消耗するのはソールだけではない。アッパー(甲)も内外からの衝撃で消耗していく。だから、ソールの交換コストが革靴の買い替えコストより低くても、その差が小さければ小さいほど、ソール交換のメリットが見えてこない。

セメント製法はソール交換ができるが高い

そもそもセメント製法の革靴はソールの交換(オールソール?)ができないといわれることが多いが、実際にはソールは交換(オールソールも)できる。しかし、オールソールになるとソールを交換してくれる店が限定されることや、グッドイヤーウェルト製法の革靴と同じようなコストがかかるため、セメント製法の革靴を買うよりも相対的に高いことは事実だ。

「セメント製法」「ソール交換」といったキーワードで検索すると、セメント製法の革靴をオールソールしてくれる店は見つかる。オールソールのコストは10,000円以上で、ケンフォードのように安価な革靴を買うのと変わらないコストだ。

セメント製法の革靴でオールソールをするとき、ウェルトを縫い付けてグッドイヤーウェルト製法やマッケイ製法の革靴にすることもできる。当然ながら、セメント製法でソールを貼り合わせるよりも高コストになる。

長い目で見るとジャランやスコッチは安い

トータルコストで比較しないと意味がない。ケンフォードはサブスク的なコスト構造だ。ジャランやスコッチのコストは分散される。よって、長い目で見るとジャランやスコッチは安い

トータルコストで比較しないと意味がない

革靴を買うとき、革靴「そのもの」の価格だけで判断していては少しもったいない。前述したように、メンテナンスのコストがかかるのだから、メンテナンスコストも含めたトータルコストこそが比較の対象となるべきだ。

革靴に使われる「革」の品質は、革靴の価格と相関する。しかし、ソールの耐久性に大きな差はない。つまり、十万円の革靴でもソールの交換は必要であり、交換までの間隔や交換コストは一万円の革靴と変わらない。

ここで結論をいうと、グッドイヤーウェルト製法の革靴はセメント製法の革靴よりもトータルコストは高い。しかし、大切に履き続ければ、その差は(埋まることはないが)縮まっていく。

埋まることのない差は、グッドイヤーウェルト製法の革靴におけるプレミアムとなる。プレミアムは履き続けるとインソールが足の形に馴染んでくることや、全体的に良質な革を使っていることによる見栄えの良さと解釈できる。

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ケンフォードはサブスク的なコスト構造だ

ケンフォードの革靴を買うときは低コストだ。グッドイヤーウェルト製法の革靴と比べれば、使用頻度にもよるが数ヶ月〜二年間にかかるコストは圧倒的に低い。この特徴はまさにサブスクリプション型のサービスと同じである。

たとえば、15,000円のKB48を週二回のペースで履いていれば、二年間で200日履いたことになる。革靴を200日も履けば、オフィスワークがメインでもソールの交換時期が訪れる。KB48の場合はソール交換よりも買い替えが最善策だから、再び15,000円を支払ってKB48を買うとしよう。

KB48を買い替える直前までにかかったコストは、15,000円 / 200日 = 75円 / 日である。買い替えたKB48は再び200日履くと買い替えの時期になるから、その時点のコストも同様に75円 / 日で、日あたり75円のサブスクリプションと考えることができる。

ジャランやスコッチのコストは分散される

ジャランスリワヤやスコッチグレインがつくるグッドイヤーウェルト製法の革靴は、ケンフォードのようなサブスク型のコスト構造ではない。革靴の価格が耐用年数で償却される固定資産のイメージに近い。つまり、長く使えば償却金額も小さくなる。

たとえば、30,000円の98317(ジャランスリワヤの内羽根ストレートチップ)を200日ごとにソール交換する。ソールの交換に20,000円かかるなら、ソール交換前のコストは30,000円 / 200日 = 150円 / 日だ。この時点ではKB48の二倍のコストがかかっている。

しかし、一度ソール交換をして200日経過したときのコストは、( 30,000円 + 20,000円 ) / 400日 = 125円 / 日と、革靴の価格が期間に応じて分散されていることが分かる。それから200日後は117円と、分散効果は低くなるがKB48とのコスト差は小さくなっていく。

さすがにアッパーなどの消耗もあるため、10年で耐用年数を迎えるとする。すると、トータルコストは日あたり110円でありKB48の150%だ。すなわち、最終的にKB48よりは高いものの、KB48の50%がプレミアムとして乗っていると考えられる。

革靴のなかからケンフォードを選ぶ時点で、数千円の革靴よりはしっかりとした革靴を選びたいという意志があるはずだ。だから、このプレミアム分は受け入れられる可能性が高い。

さらに、環境省が掲げるサステナブルファッションといった観点からも、履き捨てを前提に革靴を買うよりも、プレミアムを乗せて満足度の高い革靴を長く履くほうが理にかなっている。