リーガルとスコッチグレインどちらを買うか?

リーガルもスコッチグレインも、はじめて買うしっかりとした革靴にはおすすめできる。しかしながら、2社が取っている戦略はまったく異なるものである。今回はリーガルとスコッチグレインについてまとめる。

はじめての革靴はリーガルよりもスコッチグレインを買うべきだ

リーガルとスコッチグレインを比較するにあたり、実際に所有している(していた)革靴を具体例としてあつかう。いずれも、「グッドイヤーウェルト製法」でつくられた、「ストレートチップ」の代表的なモデルだ。

  • リーガル 01DRCD ブラック
  • スコッチグレイン 916 ダークブラウン

着眼点としては、実際に使用したなかでの「気づき」と、企業「戦略」の違いという観点で評価した。さらに、本題からは逸れるが、同価格帯では有名なジャランスリワヤについても、さいごに比較している。

気づきは、適当ではないかもしれないが、QCD(=Quality, Cost, Delivery 品質、価格、納期)を枠組みとしてつかった。このうち、納期は拡大解釈して「入手難易度」としている。

これらから、はじめてグッドイヤーウェルテッドの革靴を買うなら、リーガルよりもスコッチグレインをおすすめするという結論になった。その理由は下記のとおりである。

  • スコッチグレインはQCDに優れている
  • リーガルは中庸でこだわりが少ない
  • ジャランスリワヤは価格の優位性がある

スコッチグレインはQCDに優れている

スコッチグレインが使用する「革」は、スコッチグレインが公言するとおり上質な革である。また、スコッチグレインの耐久力を上げるための工夫は、革靴を長持ちさせるなど、ランニングコストを下げることにもつながりそうだ。さらに、リーガルとスコッチグレインのあいだには、アクセシビリティの差はほとんどない。

スコッチグレインは革にこだわる

スコッチグレインは革にこだわっていることを公言しているだけでなく、実際の革靴から革質のよさを感じることができる。

所有している(していた)01DRCDと916とでは、ブラックとダークブラウンというカラーの違いはあるものの、アッパーの質感は916のようが優れていると感じた。具体的には、916のほうが光沢がでやすいといった印象である。

アッパーの光沢自体が革の品質を決めるものではないが、靴全体に高級感をだす「顔」であることは間違いない。また、革の光沢は「原材料品質」と「後処理」の掛け算であるため、しっかりと仕上げられているともいえる。

ちなみに、01DRCDと916のいずれも、アッパーにはアノネイの「ベガノ」というアニリンカーフを使用している。しかしながら、ベガノのなかでも品質に「ばらつき」はあるはずである。

つまり、916のほうが光沢がでやすいということは、スコッチグレインはリーガルと同じグレードの革を使用していても、より品質が高い革を厳選しているとも考えることができる。

スコッチグレインは長持ちする

また、スコッチグレインの革靴には耐久力を上げる工夫がされていて、リーガルよりも「長持ち」することが予想できる。したがって、中長期的なランニングコストでは、スコッチグレインに分がありそうだ。

01DRCDと916のいずれも、グッドイヤーウェルト製法でつくられている。つまり、ソールを張り替えることで、どちらの靴も数年、数十年と履きつづけることができる。

しかし、916には細かな配慮がなされている。たとえば、ソールの「つま先」がラバーチップで補強されている。このようにすることで、履きはじめのソールの返りがわるいときでも、つま先の「すり減り」を軽減することができる。

また、前述したとおり、916は01DRCDよりもアッパーの光沢がでやすい。そのため、日々のメンテナンスにかかる時間的なコストも、916のほうが少なくて済むといえる。

ただし、916のダークブラウンは、カラーが抜けやすいとも感じる。数年もすると、すっかりブラウン、ライトブラウンといった印象になった。

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スコッチグレインは手に入りやすい

「リーガル」「スコッチグレイン」というブランドネームでは、リーガルのほうが有名かもしれない。しかしながら、スコッチグレインもリーガルと同じくらいアクセシビリティは高い。

まず、リーガルがスコッチグレインよりもブランドとして有名な理由は、「店舗数」の多さに比例するところがある。直営店の数では、リーガルが圧倒的に多い。しかし、実際に革靴を買うシチュエーションを考えると、店舗数の差による影響は小さいものと考えられる。

なぜなら、リーガルとスコッチグレインで迷っているとき、リーガルを取り扱う百貨店、量販店に行けば、たいていはスコッチグレインも取り扱っているからだ。

また、リーガルの直営店は市街地に出店していることが多い。つまり、リーガル直営店に行くことがあっても、少し足を伸ばせば、スコッチグレインを取り扱う百貨店や量販店に行くこともできる。

さらには、アマゾンでも革靴の試着サービス「プライム・ワードローブ」 がある。プライム会員は無料で利用することができるため、よりいっそう店舗数の差はなくなってきているといえる。

リーガルは中庸でこだわりが少ない

リーガルはターゲットが広いため、「革靴選び」で定番下してしまったことによる弊害がある。いっぽうで、スコッチグレイン は「こだわり」をアピールすることにより、革靴市場における差別化に成功した。

リーガルはターゲットが広い

リーガルがターゲットにしている顧客層は広い。そのため、リーガルの認知度は高く、はじめてしっかりとした革靴を買うときの定番になっているが、いくつかのデメリットもある。

まず、リーガルはドレスシューズからカジュアルシューズまでを展開しており、それぞれに紳士靴と婦人靴がある。さらには、価格も低価格帯から高価格帯までを「リーガル」として展開している。

このように、ターゲットを広げて認知度が上がることによって

  • ファッションとしての没個性化
  • 没個性化による他者とのかぶり

といった弊害がうまれる。つまり、「リーガル」というブランドでは、「高級」というラベンリングができなくなってしまった。

実際に、リーガルには「シェットランドフォックス」という、より高価格帯に限定した革靴のブランドがある。これは、トヨタが北米で高級車を展開するため、「レクサス」というブランドを展開したことと同じだ。

革靴にある程度のこだわりをもつ「市場」自体が、どちらかといえばニッチな市場である。このなかで他社との競争を勝ち抜くためには、コストリーダーシップ戦略による「スケール」を活かした価格競争へ持ち込むか、差別化戦略による「こだわり」に特化したブランド価値の向上をするしかない。

つまり、リーガルは前者を選択し、「リーガル」というブランドをより大衆向けに拡大したということだ。

スコッチグレインはニッチだ

いっぽうで、スコッチグレインの戦略は「差別化」にある。革の「質」や靴の「製法」といった「こだわり」をアピールすることで、ニッチな顧客層を確実に取りにいっている。

日本の革靴市場でトップを走ってきたリーガルに対して、後発であるスコッチグレインは、差別化という戦略を取らざるを得なかったともいえる。

しかし、服装のカジュアル化や人口減少による市場の縮小によって、「スケール」よりも「こだわり」を活かした戦略のほうが、需要者側の反応がよく、スコッチグレインにとっては追い風になったものと思われる。

だが、この先の将来を考えると、サプライチェーンのグローバル化やオンラインショッピングの発達により、対「リーガル」だけでなく、対「輸入靴」も考慮しなくてはならない。

経済産業省によると、2012〜13年以降では、革靴の輸入額が国内生産額よりも多い状況が続いている。安価な革靴が大量に輸入されているとも考えられるが、なんらかのアクションは必要だと思われる。

ジャランスリワヤは価格の優位性がある

リーガルとスコッチグレインのほかでは、「ジャランスリワヤ」も比較の対象になることが多い。ジャランスリワヤの特長は、価格の優位性にある。

ジャランスリワヤは、リーガルとスコッチグレインの中間に位置するブランドだと考える。リーガルは前述したとおり、「高級」というポジションを取ることがむずかしい。いっぽうで、スコッチグレインはリーガル「よりも」高級なポジションに近い。

ジャランスリワヤの革靴は、「ハンドソーンウェルト製法」でつくられるというこだわりを持ちながらも、その価格は2万円台からと低価格である。この絶妙なバランス感覚が、リーガルとスコッチグレインの中間というポジショニングの評価になった。

いいかえれば、少し中途半端な印象もある。少しだけ価格を上乗せすれば、スコッチグレインを買うことができる。リーガルとジャランスリワヤの比較はむずかしいところであるが、品質はリーガルのほうが安定していると感じる。

リーガルはダメなのか?

リーガルとスコッチグレインの比較では、スコッチグレインを買うべきだという結論になった。しかしながら、「リーガル」というブランドはもうダメなのだろうか?

安定した品質を保っている

相対的な比較では、スコッチグレインの魅力に光るところが多い。しかし、リーガルはけっして粗悪な革靴を製造、販売しているわけではない。

製造する革靴は、日本を代表する革靴メーカーとして、安定した品質であるといえるだろう。ただ、ユーザー視点での「魅力」を、製品に反映できていないだけだ。

たとえば、「原材料品質」や「後処理」といった、スコッチグレインが意識しておこなっていることである。スコッチグレインは、自社製品の魅力を具体的に言語化できているところが、大きな強みになっている。

価格競争より差別化すべきだ

残念ながら、数千円で買える安価な革靴に対して、価格で競争することはできない。グッドイヤーウェルト製法により、ソールを張り替えながら長く履きつづけたとしても、コストでは勝負にならないからだ。

したがって、ユーザーに刺さるなんらかの「こだわり」をもって、付加価値をつけていかなければならない。リーガルには、その技術力や販売力があるはずだ。ある意味では、マーケティングの強化ともいえる。

また、そもそもドレスシューズとしての革靴需要者の年齢層が、比較的高くなりつつあるともいえるかもしれない。いまの20代や30代の多くは、ユニクロなどのファストファッションがあたりまえの世代であり、服装のカジュアル化の影響も強く受けているからだ。

こうなってくると、よりいっそう「差別化」による高価格帯でのポジショニングが、リーガルにとっては重要になると考える。