スタンスミスの合皮化は天然皮革が使われない未来を予測している

スタンスミスはアディダスのアイコンである。合皮化でサステナビリティにコミットする。天然皮革の生産量は少なくなる。したがって、スタンスミスの合皮化は天然皮革が使われない未来を予測している

スタンスミスはアディダスのアイコンである

アディダスで最も有名な靴である。どんな服装にも合わせられる。誰にでも履きやすい。したがって、スタンスミスはアディダスのアイコンである

アディダスで最も有名な靴である

アディダスのスタンスミスはスニーカーの定番といえば必ず名前が上がる靴の一つであり、日本の靴小売業界では単独首位を走るABCマートが別注(廉価)モデルを展開するほど人気がある。

スタンスミスの知名度は世界でも認められていて、1971年の発売から1991年までの20年間に「世界で一番売れたスニーカー」としてギネスブックに認定されている。

とはいえ、近年はナイキのスニーカーが強いことも事実だ。アメリカの市場調査会社が発表した統計"Sneakernomics 2021 Year in Review"1によると、2021年のスニーカー売上はナイキのエアフォース1から始まってトップ5がナイキである。

どんな服装にも合わせられる

これまでのスタンスミスのアッパーには天然皮革が使われていて、2021年からは天然皮革から合成皮革に切り替わったとはいえ、そのアッパーの上質さはカジュアルだけでなくビジネスカジュアルにまで使えるデザインだ。

全体的に見ても、シュータンにスタン・スミスの顔とバックにアディダスのロゴがプリントされている以外に装飾性はなく、非常にシンプルかつ上質なデザインのスニーカーであると分かる。

誰にでも履きやすい

スタンスミスはテニスシューズを原形として作られたためか、インソールにクッション性があって長時間履いていても疲れにくい。

実際、スタンスミスの原型はアディダスとフランス人テニスプレイヤーのロバート・ハイレットが開発した「ハイレット」にある。このハイレットをベースにアメリカでアディダスの認知度を上げるため、アメリカ人テニスプレイヤーのスタン・スミスの写真を使った「スタンスミス」が生まれた。

合皮化でサステナビリティにコミットする

全てのプラスチックがリサイクル素材になる。皮革でもサステナビリティを追求する。合皮化なくしてループシステムは拡大できない。したがって、合皮化でサステナビリティにコミットする

全てのプラスチックがリサイクル素材になる

アディダスは2024年までに全ての製品のポリエステルをリサイクルポリエステルに移行する。アディダス製品に使われているプラスチックのうち、どれだけポリエステルが使われているのかは分からないが、一般的にスポーツウェア・シューズの多くがポリエステルで構成されている。

2021年には全製品の60%以上がリサイクルポリエステルに移行していることから、2024年までにこの比率を100%に上げることは非現実的な話ではない。

現在、アディダスが使うプラスチックにはリサイクル素材が40%以上使用されている「プライムブルー」と、100%リサイクル素材だけで作られる「プライムグリーン」がある。

プライムブルーは海洋プラスチックごみをリサイクルして作られるが、バージンプラスチックとリサイクルプラスチックのミックスであり、100%リサイクル素材ではない。

つまり、アディダスの目標である「2024年までに全てのプラスチックをリサイクル素材へ切り替える」は、通常のプラスチックとプライムブルーをプライムグリーンに切り替えることで達成される。

現状のプライムブルーでは100%リサイクル素材への切り替えは達成できないし、そもそも海洋プラスチックごみの調達や品質が安定しないことから、今後プライムブルーは消えていくものと考えられる。

皮革でもサステナビリティを追求する

アディダスにとっての「サステナビリティ」は、プラスチックだけでなく動物性素材の使用を減らすことにもある。この動物性素材には皮革や毛皮が含まれる。

アディダスは全てのプラスチックをリサイクル素材にする以前の2018年にも、調達する全てのコットンを「サステナブルコットン」にしている。つまり、コットン、プラスチック、レザーと順を追って素材の切り替えを進めているのだ。

しかし、レザーはプラスチックのように回収する仕組みがなく社会の中で循環していない。だから、リサイクルレザーはリサイクルプラスチックほど一般的ではない。

そこで生まれたのがプライムグリーンを使ったスタンスミスだ。レザーをプラスチックに切り替える(合皮化する)ことで、動物性素材の使用を減らすのではなくその使用自体をなくしてしまった。

それから、アディダスはキノコ類の菌糸体(マイセリウム)を使ったマッシュルームレザー「マイロ」を発表している。このマイロを使ったスタンスミスが2022年にも発売される予定だ。

合皮化なくしてループシステムは拡大できない

しかし、プライムグリーンのスタンスミスを発表した2020年の段階では、アディダスによるマッシュルームレザーの開発はスタンスミスといったアイコンを全てマッシュルームレザーで供給するほどは進んでいなかった。

それに対して、リサイクル素材を使った合成皮革(プライムグリーン)は大量生産が可能であり、アディダス製品の製造原価を下げられる。つまり、合皮化はアディダスの掲げる三つのループ「リサイクル・ループ」「サーキュラー・ループ」「リジェネレーティブ・ループ」と、アディダスのビジネスの両方を拡大させる方法だったのだ。

三つのループの中で分かりにくいのがリジェネレーティブ・ループだが、リジェネレーションは本来「再生産」といった意味の言葉で、リサイクルやサーキュラーといったマイナスをゼロにする活動だけでなく、ゼロをプラスにするという意味で使われることが多くなった言葉だ。

アディダス製品の中ではマイロを使った製品がその例で、最先端の農業技術を使うとわずか二週間で成長する菌糸体の特性を「自然とのコラボレーション」としている。

天然皮革の生産量は少なくなる

国レベルで植物性タンパク質が推進されている。食肉の消費量が減れば皮革の生産量も減る。天然皮革離れの動きもある。したがって、天然皮革の生産量は少なくなる

国レベルで植物性タンパク質が推進されている

人口増加に合わせてこれまでのペースで食肉消費が増加すると、大量の家畜を飼養するための土地が必要になり、畜産に関わる温室効果ガスの排出や森林破壊といった環境問題にもつながる。

これらの問題を解決するために、カナダやEUは植物性タンパク質や植物ベースの食事開発に投資することを発表していて、それに追随するかたちで企業もこれらの開発に投資を始めている。

グーグルの共同創設者であるセルゲイ・ブリンが動物を殺さない「培養肉」の開発に資金提供をしたり、俳優のレオナルド・ディカプリオが植物由来の「人口肉」を製造・開発する企業に投資をしたりと、世界中で植物性タンパク質の話題は事欠かない。

食肉の消費量が減れば皮革の生産量も減る

服装に使われる皮革は食肉の副産物であり、植物性タンパク質の開発が進み食肉の消費量が減ればすべからくこれら皮革の生産量も減る。つまり、これまでの皮革消費は動物を余すことなく使っている点ではエコであった。

実際、皮を取るために動物を殺すことは禁止されていて、2000年代初頭に起きたBSE問題で牛肉の消費量が落ちたときは皮革の価格が高騰したといわれている。

食肉の副産物として生産される牛革を初めとする一般的な皮革に対して、食肉加工の副産物ではない皮革を「エキゾチックレザー」という。代表的なものではワニやヘビといった爬虫(はちゅう)類やダチョウなどの鳥類から取る皮革だ。

エキゾチックレザーはワシントン条約によってその輸出入が厳しく制限されているだけでなく、前述したように食肉加工の副産物ではないことから、その使用を廃止したブランドもある。例えば、2018年にはシャネルがエキゾチックレザー製品の廃止を宣言して話題になった。

天然皮革離れの動きもある

そもそも副産物としての皮革から作られた製品であっても、天然皮革を使った製品は使用しないという流れ(ある種のトレンド)もある。

近年は「動物福祉」という言葉が広く認知されてきているように、動物性素材(製品)に対して漠然とした嫌悪感を抱く人もいる。牛革などの一般的な皮革はエコなものであるが、その流通経路を無視して動物性素材(製品)を使わないと決めている人がいることは事実だ。

同時に合成皮革の技術が上がったことで、パッと見だけでは天然皮革と見分けができない質感を持っていたり、合成皮革の特長(雨に強いことや相対的に安いこと)を生かしてあえて合皮を選ぶという選択肢も出てきた。

天然皮革は二百万年前(旧石器時代)から食肉の副産物として使われている人類最古のリサイクル素材ともいえるが、現代に生きる人はその歴史の転換点に立っているのかもしれない。