糖質制限と脂質制限はどっちが優れているのか?

ダイエットの基本は食事と運動だ。このうち、食事をコントロールしていくやり方には、糖質制限と脂質制限のふたつがある。ここでは、糖質制限と脂質制限の違いについてまとめる。

だれにでも導入しやすいのが脂質制限の特長である

ダイエットの目的は体重を減らすことだ。しかし、体重を減らすといっても筋肉を減らしたいわけではない。つまり、体脂肪を減らしたいということだ。このとき、体脂肪を減らすためのロジックはふたつしかない。

まず、前提として、消費するカロリーが摂取するカロリーよりも多くなくてはならない。すなわち、現在の状態が体重が増えているか、変わらない状態なのであれば、消費カロリーを増やすか、摂取カロリーを減らすかということになる。

しかしながら、運動を増やして消費カロリーを増やすことにも限界がある。そのため、基本的には摂取カロリーを制限していくことになる。ここで、摂取カロリーを制限する方法にもふたつの選択肢がある。

ひとつは、「ローカーボ」という言葉が話題にもなる「糖質制限」だ。ふたつめが、マクロ管理法ではおなじみの「脂質制限」である。三大栄養素には、「炭水化物(≒糖質)」と「脂質」以外にも、「たんぱく質」がある。しかし、「たんぱく質」を制限すると、筋肉が落ちてしまう可能性があることから、「たんぱく質制限」という選択肢はない。

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ダイエットの効果(≒体脂肪の減少)は、消費カロリー>摂取カロリーにさえなっていれば、「糖質制限」も「脂質制限」も同じだ。しかしながら、「脂質制限」のほうが導入が容易であることも事実である。その理由は下記のとおりだ。

  • 脂質制限は制約が少ない
  • 糖質制限は負担が大きい

脂質制限は制約が少ない

脂質を制限することは、摂取カロリーを制限するもっとも効率的な方法である。また、脂質制限はかならずしも空腹感をともなうものではない。低脂質・高たんぱくな食事など、脂質制限をサポートする手段が多いことはメリットである。さらに、脂質制限は自分でダイエット期間をコントロールできることもメリットだ。

脂質の制限は効率的である

脂質制限とは、摂取するカロリーをPFCごとに管理する「マクロ管理法」によるダイエット手法だ。なぜPFCのなかからF(=Fat、脂質)を制限しているのかといえば、脂質を制限することがもっとも効率的だからである。

脂質は、PFCのなかでもっともエネルギー量が多い。つまり、脂質はハイカロリーだ。ハイカロリーな脂質を制限できれば、摂取カロリーの削減インパクトも大きくなることは自明だ。

また、脂質はホルモンバランスを整えるために必要な栄養素であるとはいえ、運動パフォーマンスに影響する「炭水化物」や、筋肉の材料になる「たんぱく質」よりは、摂取すべき優先度が低い。

脂質制限≠空腹感である

ダイエットと聞くと、食事制限による禁欲的な生活があたまに浮かぶかもしれない。しかしながら、食事制限はかならずしも空腹感とイコールにはならない。

ダイエット中は筋肉の減少を抑制するためにも、十分な量の「たんぱく質」を摂取するべきだ。たんぱく質を多く摂ることは、空腹感を抑えることにも有効である。

「炭水化物」には食欲を増進する作用があり、「脂質」はハイカロリーだ。「たんぱく質」を少量に分割して細かく摂取することで、空腹感を減らすことができる。

脂質制限のサポートは多い

世の中には、脂質制限をサポートするための食事や調理方法が多く広まっている。

脂質を制限することで体脂肪を落とすダイエットは、むかしからダイエットにおける基本的な手段として利用されてきた。したがって、個人から集団(≒社会)へと、脂質制限のノウハウが広まっている。

たとえば、低脂質・高たんぱくな「サラダチキン」や「プロテインバー」は人気がある。また、自宅でも鶏胸肉をつかった簡単な調理方法などが、検索をすれば簡単に調べることができる。

期間をコントロールできる

脂質制限のような「マクロ管理法」による摂取カロリーのコントロールは、ダイエットへの段階的な移行を可能にする。

「マクロ管理法」が優れているのは、落としたい体脂肪量から逆算して、ダイエット期間を設定できることだ。もちろん、体脂肪10kgを1ヶ月で落とすというのはむりがあるが、1ヶ月で体重の0.5%の体脂肪を落とすことは、むりがなく実現可能性も高い。

つまり、2ヶ月で体重の0.5%の体脂肪を落とすように、段階的にダイエットを導入していくことも可能だ。しかしながら、人には「恒常性(=ホメオスタシス)」という機能があることには注意したい。

「恒常性」には、外部環境の変化に対応するため、摂取カロリーにあわせて基礎代謝を下げる機能がある。つまり、あまりにもダイエット期間を長くすると、代謝が落ちることで体脂肪が落ちにくい状態になることもある。

糖質制限は負担が大きい

ここでの「糖質制限」は、「ローカーボ」ではなく「ケトジェニック」というダイエット手法のことだ。ケトジェニックでは、「脂質」をエネルギーとして使用する。そのためには、徹底した「糖質」のカットが必要だ。また、ケトジェニックでは、健康状態を把握するためのケトンメーター導入や、質の高い脂質の摂取など、なにかとコストが高くなりがちだ。さらには、脂質制限のような段階的な導入ができないといった制約もある。

「ローカーボ」ではない

ここでいう「糖質制限」とは、「ケトジェニック」というダイエット手法のことだ。なにかと言葉だけが話題になる「ローカーボ」とは、意味合いが少し異なる。

前述したとおり、PFCをコントロールして摂取カロリーを制限する場合は、ハイカロリーな「脂質」を制限することがもっとも効率的である。それでは、なぜ運動パフォーマンスにも影響する「糖質(≒炭水化物)」を制限する「糖質制限」があるのか?

それは、徹底した「糖質制限」によるケトジェニックというダイエット手法になると、少し事情が変わってくるためだ。「ケトジェニック」では、運動パフォーマンスへの影響を最小化することができる。

脂質をエネルギーにする

ケトジェニックがなぜ運動パフォーマンスに影響しないのか?というと、ケトジェニックでは、「脂質」を「糖質」の代わりにエネルギーとして使用する状態へ、体を変化させるからだ。

通常、人の体内では、摂取した「炭水化物」のうち、「糖質」を分解して生じる「グルコース(ブドウ糖)」がエネルギー源として使用されている。

しかし、「糖質」の摂取をかぎりなく0に近づけ、かつ十分な量の「脂質」を摂取すると、脂肪を分解してできる「ケトン体」という化合物の濃度が高くなる。

この「ケトン体」濃度が高い状態を「ケトーシス」といい、ケトーシス状態では、「グルコース」に代わり「ケトン体」がエネルギーとして使用される。

つまり、「糖質」ではなく「脂質」が運動のエネルギー源となるため、「糖質」を摂取しなくても運動パフォーマンスに影響がでないということだ。

「制限」ではなく「カット」する

ケトジェニックで重要なことは、いかにして「糖質」の摂取をカットするか?ということだ。基本的には、糖質を主体とする食べもの(米やパンなど)は摂取することができない。

ケトーシス状態のカギとなるのが、「グルコース」の枯渇による「ケトン体」によるエネルギー源の代替だ。したがって、ケトーシス状態である体に「糖質」が入ってくると、体は「糖質」を優先してエネルギー源としてしまう。

ケトジェニックにおける摂取カロリーのPFCバランスは、おおむね下記のようになる。

  • たんぱく質; 30-35%
  • 脂質; 55-60%
  • 炭水化物; 5-10%

たとえば、摂取カロリーが2,000kcalのときは、「糖質」は多くて50gの摂取にとどめなくてはならない。この50gは「摂取可能」な糖質の量というよりは、ほぼすべての食べものに含まれる糖質のための「バッファ」と考えるべきだ。

より具体的に、ケトジェニックで食べることができる食事は、下記のようなものだ。

  • 牛肉やベーコンなどの肉類、魚、卵
  • バターやチーズなどの乳製品
  • サラダ(マヨネーズをかける)
  • フルーツやナッツ類

導入コストが高い

ケトジェニックは始めるには、「イニシャル」と「ランニング」コストとして、ふたつのコストを考える必要がある。

ケトンメーターの導入

ダイエットの成功と自分の健康管理という意味でも、「ケトン体」濃度が正確に測定できる「ケトンメーター」を導入するべきだ。

ケトジェニックは、体を「ケトーシス」状態に維持しなくてはならない。つまり、体内の「ケトン体」濃度を正確に把握する必要がある。

ケトン体濃度は通常よりも高くなければならないが、高すぎる状態は「ケトアシドーシス」という。「ケトーシス」と言葉は似ているが、「ケトアシドーシス」は非常に危険な状態である。

つまり、ケトンメーターの導入は、ダイエットの成功だけでなく、健康管理という側面も持ち合わせているということだ。

脂質をMCTに厳選

また、脂質を多く摂取するといっても、「脂質」であればなんでもいいわけではない。摂取する脂質には、「中鎖脂肪酸(Middle-Chain Triglycerides, MCT)」が推奨されている。

なぜMCTが推奨されているのか?というと、MCTは「ケトン体」の生産量を増やす効果があることと、エネルギーへの分解がされやすいということがあげられる。そもそも、「脂質」には下記の分類がある。

  • 短鎖脂肪酸
  • 中鎖脂肪酸
  • 長鎖脂肪酸

これらは分子のチェーンの長さを表している。短〜中鎖脂肪酸のほうが、長鎖脂肪酸よりもケトン体の生産量を増やしやすい。また、中鎖脂肪酸はエネルギーとして素早く分解され、体脂肪にもなりにくいという特長がある。

後者の観点では、たとえケトジェニックでなくとも、脂質の摂取を「中鎖脂肪酸」にこだわることで、体脂肪の増加を抑制する効果が期待できる。

段階的な導入ができない

ケトジェニックの仕組みから分かるとおり、「脂質制限」のようにダイエットへ段階的に移行していくことはできない。

体をケトーシス状態にするためには、食事から一切の「糖質」を排除しなくてはならない。また、一度ケトーシス状態になった体を維持するためには、「糖質」を摂取することができないからだ。

これは、旅行など「食事制限」がむずかしいような状況では、大きな制約となることだろう。

脂質制限を成功させるためには?

「糖質制限」「脂質制限」にかかわらず、ダイエットの成功は「食事」と「運動」が大きく関わっている。いれずれのダイエット手法においても、食事での共通項は「たんぱく質」であり、運動での共通項は「トレーニング」だ。

サプリを摂る

「糖質制限」「脂質制限」ともに共通していることは、十分な量の「たんぱく質」を摂取することだ。通常の食事では「糖質」や「脂質」も同時に摂取することになるため、「たんぱく質」だけを摂りたいときは、プロテインパウダーを飲むことがもっとも効率的である。

筋トレをする

また、ダイエットの目的は「体重」を落とすことではなく、「体脂肪」を落とすことである。つまり、脳へ筋肉の必要性を伝達するためにも、トレーニング強度を維持したまま継続することが求められる。

よくあるダイエット後のリバウンドは、筋肉が落ちたことで基礎代謝が下がってしまい、食事量を戻したときにこれまで以上に体重が増えてしまう現象だ。

ダイエットというひとつの短期的な目標に目を向けるよりも、長期的に健康的な体を手に入れることを目標とするべきであり、そのためにトレーニングは必要なのである。