ユニクロのスキニーフィットチノに非の打ち所はないが限界はある

スキニーフィットチノは最強の黒スキニーになる。定番アイテムこそユニクロで買うべきである。ユニクロの「黒」は定期的な買い換えが必要だ。したがって、ユニクロのスキニーフィットチノに非の打ち所はないが限界はある

スキニーフィットチノは最強の黒スキニーになる

スキニーフィットチノは本当にスキニーである。スキニーの弱点は2WAYストレッチでカバーする。ユニクロの2,990円には2,990円を超える価値がある。したがって、スキニーフィットチノは最強の黒スキニーになる

スキニーフィットチノは本当にスキニーである

ユニクロのスキニーフィットチノは細身で高い位置からのテーパードになっているため、とても「スキニーパンツ」らしいシルエットの商品だ。

ユニクロのチノパンにはこのスキニーフィット以外に「レギュラーフィット」と「スリムフィット」があるが、レギュラーフィットチノは(トレンドは別にして)細身のパンツが主流の中ではやぼったい。

スリムフィットチノは細身ではあるものの膝下はストレートであり、レギュラーフィットチノを細くしただけのシルエットでスキニーとはほど遠い。

ユニクロがチノパンにこれら三種類のシルエットを用意していることからも、ユニクロの中でスキニーフィットチノがスキニーパンツであることを明確に示している。

スキニーの弱点は2WAYストレッチでカバーする

スキニーパンツの弱点は履いたときの膝回りの窮屈さであるが、スキニーフィットチノはユニクロ得意のストレッチ素材を使うことでタテヨコに伸縮性(2WAYストレッチ)があり、そのシルエットに反してあまり窮屈に感じない。

ユニクロは現代の消費者が服装(特に、カジュアルウェア)に求めるものを理解している。その中の一つに「着心地の良さ」があり、どれだけデザインや価格で他社より優れていても、着心地が良くなければ消費者からは選ばれないことを分かっている。

30年前のジーンズはコットンだけで作られていて、長く履いて体になじませることが一般的であったかもしれない。しかし、長く履くことで起こる変化を「エイジング」や「味が出る」と意味付けしたのは、買ったばかりで体になじむジーンズが作れなかったからだ。

それに対して、今では買ったばかりでも体になじむ服装が作れる技術があり、その技術を余すことなく使っているのがユニクロである。

ユニクロの2,990円には2,990円を超える価値がある

スキニーフィットチノはその価格の安さ(2,990円)もさることながら、実際にユニクロへ行って実物を見たり、購入と配送はオンラインに任せたりといったことができる点にも価値がある。

オンラインでスキニーパンツの価格だけを見るなら、スキニーフィットチノに類似する同価格の商品はいくらでもある。しかし、それらはいずれもユニクロを超える購入体験が期待できない。

日本国内でユニクロ以上に実店舗を持つアパレルブランドはないし、返品やサイズ交換が無料でできるオンラインショッピングでも、それらの作業には時間や手間がかかる。

ユニクロの強みは低価格で高品質な「商品そのもの」にあるだけでなく、(消費者にとっての)店舗オペレーションや購入体験の良さにもある。ユニクロが海外に市場を拡大して成功するかどうかは、日本人が感じるユニクロの身近さをどのように海外でも浸透させるか?にあるだろう。

定番アイテムこそユニクロで買うべきである

ユニクロはファストファッションではない。ユニクロは定番アイテムに強い。ファストファッションは定番アイテムに弱い。したがって、定番アイテムこそユニクロで買うべきである

ユニクロはファストファッションではない

ファストファッションの「ファスト」は早くて安いファストフードから来ている。服装における「早さ」は最新の流行を取り入れるスピードで評価される。しかし、ユニクロが作っているのは「シンプルで長く着られる服」だ。

ユニクロの商品には目新しさがない、ユニクロではいつも変わらない商品ばかりが売られている、これらは多くの人が感じていることでユニクロがファストファッションではないことを物語っている。

一般的にファストファッションは製造小売業(SPA)と同一視されがちだし、柳井正もユニクロをファストファッションと見なしている節があるが、ユニクロは決して最新の流行を取り入れるスピードが早いわけではない。

ユニクロは定番アイテムに強い

ユニクロの強さはファストファッションとは対極の「スローファッション」とでも言える特長にある。シンプルで長く着られる服を作るということは、定番アイテムを作るということだ。

ユニクロは定番アイテムになり得るものだけを大量に生産するから、低価格と高品質の両立を実現できる。それから、同じ商品を大量に生産するからこそいつも在庫が潤沢であり欲しいときに欲しいものが買える。

服装において一つの商品ごとの生産量でユニクロを上回る企業はないだろう。だから、同じ価格の服装を比べたとき、ユニクロを超える品質で服装を作ることができる企業はない。

ユニクロの商品を安かろう悪かろうと考えている人がいるが、実際は安くて良いものを作っているのがユニクロであり、それができる理由はそれを信じてユニクロ商品を買う多くの消費者がいるからだ。

ファストファッションは定番アイテムに弱い

前述したようにファストファッションはいち早く最新の流行を取り入れることを重視しているから、ユニクロのように十年先にも着られる服装(つまり、定番アイテム)を作ることは前提としていない。

ZARAやH&Mの店舗に行くと分かるが、ユニクロよりも相対的に新鮮な服装を作っている。ZARAやH&Mは流行の兆しを察知して商品化するまでのスピードが非常に早いので、消費者から見るとそれらの商品は新鮮に見える。

しかし、最新の流行を取り入れた商品の寿命は長くないから、ZARAやH&Mがユニクロのように同じ商品を大量に生産することはない。

だから、欲しい商品があっても在庫がなくなれば品切れになって買えないことがあるし、ユニクロと同価格の商品ならその品質がユニクロを超えることもない。

ユニクロの「黒」は定期的な買い換えが必要だ

ユニクロの「黒」は色落ちする。カジュアルウェアは修理しない。個人の修理より社会で循環させる。したがって、ユニクロの「黒」は定期的な買い換えが必要だ

ユニクロの「黒」は色落ちする

一般家庭で洗濯ができるカジュアルウェアには色落ちという宿命がある。その中でもユニクロの黒色は色落ちして紫色に変色してしまうことが多い。

黒色のスキニーフィットチノも例外ではなく、数回の洗濯で膝回りが色落ちしてしまう。三年前に買った同じ黒色のスリムフィットチノに至っては、全体的に紫色に変色してしまい黒色ではなくなっている。

洗濯機を使って黒色を染め直すものも売られているが、洗濯機や他の服装への影響を考えると使用には尻込みしてしまう。家庭内で服装を染色するのは敷居が高い。

カジュアルウェアは修理しない

カジュアルな服装は修理して着ることを前提に作られていないし、ユニクロの商品なら修理するよりも買い換えた方が安く済むことすらある。

それに対して、フォーマルやビジネスで使うジャケットやパンツは、袖や裾の裏の縫い代に余裕を持たせることでサイズ調整ができたり、修理をしながら長く着ることを前提に作られている。

ユニクロの「シンプルで長く着られる服」とは、流行や定番といったデザインの話であり服装としての耐久性は意味していない(とはいえ、極端に耐久性が低いわけではない)。

それでもユニクロがアパレル市場で価格破壊をしてしまったことで、使えるものまで買い換えてしまう服装の大量生産・大量消費が加速していることは否めない。

個人の修理より社会で循環させる

しかし、ユニクロも安価な服装を大量に生産して消費者の使い捨てを加速させているだけではない。服装の持続可能性問題には正面から取り組み、古くなったユニクロ商品が社会で循環する仕組みをつくっている。

その一つが"Re.UNIQLO"であり、ユニクロ商品のリユースとリサイクルを促進する活動だ。実際にユニクロの各店舗にはユニクロ商品の回収ボックスがある。

ユニクロはこの回収ボックスを使って消費者が不要になった古着(ユニクロ商品)を回収する。回収された古着はリユースまたはリサイクル向けに仕分けされて社会の中で循環していく。

ユニクロ(ファーストリテイリング)は「資源を無駄にしないこと」を掲げていて、環境配慮の施策や取り組みを言語化して世界に発信している。

それから、ユニクロ(ファーストリテイリング)は人権問題を解決するためのフレームワークで上位の評価を受けている。1

ユニクロくらい大きくグローバルで活躍する企業は、自社の商品だけでなくビジネスそのものの持続可能性を外部機関によって評価されてしまう時代だ。

だから、消費者としてユニクロの商品を使うときの違和感(修理するよりも買い換えた方が安いかも?など)は当然のようにユニクロの企業価値に影響することであり、その是正は今後も進んでいくものと思われる。