英会話に英語の「聞き流し」効果はあるのか?

「英語を聞き流すだけで英会話が上達する」といったことをほのめかす教材があるが、本当に「聞き流し」だけで英会話が上達するのか?ここでは、英語の「聞き流し」の効果についてまとめる。

「聞き流し」で英会話を上達させることはできない

英会話を上達させる方法は、大きく分けてふたつある。ひとつは、実際の英会話でトレーニングをすることだ。もうひとつは、サテライト的に英会話で必要な能力をトレーニングすることだ。

いずれのトレーニングも伸ばすべき能力は共通していて、その方法が英会話か英会話以外かの違いにほかならない。

もし、「聞き流し」をトレーニングに分類するとすれば、後者のサテライト的トレーニングのなかになる。しかし、聞き流しといっても、言葉の定義が少しあいまいだ。

なぜなら、英語の聞き流しで対象となるコンテンツはさまざまだからだ。たとえば、聞き流すことを前提につくられた教材があれば、音楽や映像を聞き流すこともできる。

つまり、「聞き流し」を定義するにあたって、聞き流しはコンテンツで分類するのではなく、コンテンツに向きあう姿勢(思考の状態)によって分類されるべきだと考えた。

ここでは、「聞き流し」を「思考をともなわないインプット」と定義する。したがって、あらためて問題を書きなおすと、「思考はしていないが、なんらかの英語が聞こえている状態をつくることは、英会話を上達させるのか?」となる。

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そして、この問題をいくつかの切り口から考えてみたが、「聞き流し」によって英会話が上達することはない、というのが結論である。その理由は下記のとおりだ。

  • 英会話は「思考」しなければならない
  • 音に慣れることはできるかもしれない
  • 「流し」よりも「集中」が有効である

英会話は「思考」しなければならない

英語を聞き流すだけでは、「語彙力」を増やすことはできない。また、「文章構築力」も向上しない。さらには、「聞き取り」や「発声」といった能力の強化にもつながらない。

「聞き流し」で語彙力は増えない

英会話を上達させる方法は、「語彙」「文章の構築」「聞き取りおよび発声」といった能力をトレーニングすることだ。しかしながら、英語を聞き流すだけでは、「語彙力」を増やすことはできない。

語彙力を増やすためには、インプットした「語彙」を反復的にアウトプットしていく必要がある。短期的な記憶であれば、インプットの影響は大きい。しかし、長期的な記憶となると、アウトプットしていない語彙は、時間とともに記憶から消えていく。

エビングハウスの実験では、「無意味な音節」の忘却率が1ヶ月で79%にもなることが分かった。また、この忘却率は、無意味な音節を記憶する「ために」インプットしたときの結果だ。

つまり、思考をともなわない聞き流しは、エビングハウスの実験における「無意味な音節」の記憶定着率にもおよばず、1ヶ月79%以上の忘却率となることが推測できる。また、短期的な記憶としても定着することは期待ができないということだ。

文章を構築する能力も向上しない

また、「文章構築力」も向上しない。文章構築力とは、情報を関連づける能力である。情報を関連づけるには、思考が必要不可欠だ。

思考をともなわないのだから、情報を関連づけて文章を構築することができるようにはならない。英会話では、「文法」というルールにしたがい、適当な「語彙」をつかって文章を構築する。「文法」も「語彙」も情報である。

文章を構築しなくとも、挨拶などの「定型表現」はできると思うかもしれない。しかしながら、これは定型表現が長期的な記憶に定着した結果である。

ここで、フレーズのような定型表現をまるごと暗記してしまう「フレーズ暗記」は、上級者向けの学習方法だ。初級者や中級者は、0から思考して文章を構築するトレーニングをしたほうが、英会話の上達が早い。

思考することが記憶の定着を助けるだけでなく、失敗することによる学習の自己修正ができるようになるからだ。

音の聞き取りと発声に影響しない

英語を聞き流していても、英語が自然と聞き取れるようにはならない。また、「聞き流し」だけで発声能力を強化することもできない。

思考するということは、インプットした情報に「意味づけ」をするということだ。耳に入った「音」と、その音がもつ「意味」を関連づけることによって、「聞き取る力」が強化される。

また、意味づけされた情報を反復的にアウトプットすることが、「発声能力」を強化したり、「語彙力」を増やすことにつながっていく。

この「意味づけ」というのは、英語学習において非常に重要なプロセスだ。言葉のもつ「意味」を、頭のなかにある「イメージ」と関連づけることにも近い。

実際に、言語学者のChris Lonsdaleは、言語習得のためのアクションプランのひとつとして、意味づけ(ここでは「意味」と「イメージ」の関連づけ)を提唱している。

音に慣れることはできるかもしれない

「聞き流し」の効果が期待できるただひとつの可能性は、英語の「音」や「リズム」を知るということだ。ただし、有効性の範囲は限定的である。

もし、「英語」という言語をまったく知らない状態であれば、英語がどのような「音」と「リズム」で話される言語かを知ることはできる。

音楽を例にとると分かりやすい。なんらかの音楽が流れていると、思考することなしに、その音楽の「雰囲気」を感じることはできる。言語についても同じである。

しかしながら、このメリットを享受できるのは、知識がほとんどない状態に限定される。日本人であれば、義務教育のなかで英語の「音」や「リズム」を学習した経験がある。

つまり、英語をまったく知らない日本人の子どもには、英語を聞き流すことの有効性があるかもしれない。

「流し」よりも「集中」が有効である

「聞き流し」によって学習した「つもり」になることが、もっともよくないことだ。聞き流しは生産性に寄与するどころか、すればするだけ生産性を下げてしまう。せっかく時間を投入するのであれば、より効果的なことへの投入を検討するべきだ。

した「つもり」になってはならない

英語の「聞き流し」のもっともよくないところは、学習した「つもり」になってしまうことだ。

ここまでにまとめたように、聞き流しが英会話の上達に影響することはほとんどない。浴びるように英語を聞き流していても、英会話はまったく上達していないということだ。

そもそも、聞き流しという行為自体が、「手段の目的化」に近い行為だ。手段を問わず、英語を学習しようとする意欲まではよいが、途中からその「手段」を実行すること自体が目的になってしまう。

とくに、ストレスが少ないことは習慣化されやすい。そのため、その行為の有効性を検証することなく、生活のなかで継続してしまっている可能性がある。

「集中」することで生産性を上げる

学習している「つもり」で聞き流しを続けるくらいであれば、工数を切って短時間でも「集中」するほうが効果的だ。

「聞き流し」と「集中」の違いをひとことであらわせば、それは「生産性」の違いである。ここで、生産性は英会話の上達という「成果」を、英語学習にかける「時間」で割った比率のことだ。

たとえ思考をともなわない聞き流しであっても、英会話上達のために「時間」を投入していることは事実だ。しかし、聞き流しには生産性の分子となる「成果」が期待できない。

つまり、聞き流しをすればするだけ、生産性は下がっていくことになる。どれだけ分母が増えたところで、分子が増えることはないからだ。

英会話の上達は趣味的な目標であって、仕事のように生産性を追求する必要はないと考える人もいるかもしれない。しかし、趣味であっても生産性を考慮したほうが都合はよい。

視点を変えて「できること」をやる

「生産性」を念頭において考えるべき理由は、QOLの向上にほかならない。QOLを向上させるには、いま「できること」をやったほうがよい。

ここで、「できること」とは、実現可能性だけでなく、実現インパクトも考慮した「やるべきこと」である。とくに、後者の「実現インパクト」を考慮していなければ、それは「聞き流し」と変わらない。

つまり、聞き流しを英会話を上達させる「方法」と考えている場合は、その方法が正しいかどうかをしっかりと考えるべきだ。

いっぽうで、実際の英会話や机に向かった学習ができないときに、代替手段として聞き流しをしている場合、そのほかにできることがないかを考えるべきだ。

スキマ時間をつかった英語の学習方法のうち、もっとも効果的なのは洋書の「多読」である。多読は「リーディング」に特化した学習と思われがちだが、英会話の上達にも効果がある。

たとえば、多読が「語彙力」を増やすことや、「文章構築力」を向上させることができるのは自明だ。また、文字と音を関連づけさせることで、「発音」学習の助けにもなる。

実際に、英会話の講師はこれらの能力をトレーニングする手段として、多読をすすめてくることが多い。

「聞く」ことにこだわって学習するなら?

「聞く」または「聴く」ことにこだわった、英会話の上達方法があるのかを考えたい。

ユーチューブで学習する

「聞き流し」を学習にとりいれようとするということは、スキマ時間を有効につかいたいという気持ちのあらわれだろう。

前述したとおり、スキマ時間をつかってできるもっとも効果的な学習方法は「多読」だ。多読は英会話のように相手を必要としないことや、デバイスでもできることから、実行に対する制約は少ない。

しかしながら、それでも手がふさがっていれば、多読をすることもできない。たとえば、運転をしていたり、料理をしているときだ。

その解決方法となるのが、ユーチューブを使った学習だ。ユーチューブには英語のコンテンツがいくらでもあるため、音声だけでも聞きとるつもりで集中して聞けば、ある程度の学習効果は期待できる。

とくに、英語で「英語の学習方法」を聞くことは、ふたつの効果が期待できる。ひとつは「リスニング」の強化であり、もうひとつは「学習方法の学習」である。

audibleで学習する

また、audibleをつかった学習も効果的だ。audibleとは、アマゾンのオーディオブックである。

ユーチューブは映像ありきのコンテンツであることから、音声だけでは成立していないことがある。また、コンテンツのレベルにはばらつきもある。

しかし、オーディオブックであれば、当然音声だけで成立するようなコンテンツになっているため、多読すらできないときの代替手段となりえる。

実際に、多読の対象となるような洋書の多くがaudibleでも販売されていて、多読とは別に、オーディオブックによる「音声多読」もとりいれる効果はあるといえる。