モーニングとタキシードが並ぶ結婚式がおかしいことを知るべきだ

モーニングとタキシードの違いは時間と格式にある。「昼の礼装」と「夜の礼装」は共存できない。プロトコール(ドレスコード)から服装がもっとよく分かる。したがって、モーニングとタキシードが並ぶ結婚式がおかしいことを知るべきだ

モーニングとタキシードの違いは時間と格式にある

モーニングは昼の正礼装である。タキシードは夜の準礼装である。礼装は時間と格式で分けられる。したがって、モーニングとタキシードの違いは時間と格式にある

モーニングは昼の正礼装である

モーニングは男性の昼間の装いとしては最も格式の高い礼装(「正礼装」という)である。これは国際儀礼(プロトコール)に基づくもので、洋装文化がある国では共通の認識となっている。

実際、外務省のプロトコールに関する説明の中でも、男性の昼の正礼装をモーニングとしている。1

この文脈における「プロトコール」とは、異なる文化を持つ人たちが集まったとき、互いに礼を欠くことなく国際的または公的なイベントを円滑に進めるための「前提」や「ルール」といった意味である。

モーニングの構成は、前裾は短く後裾は長い黒無地のジャケット(モーニングコート)、ジャケットと共布またはシルバーグレーのベスト、黒とグレーの縞模様のパンツ(コールパンツ)からなる。

細かいところでは、シャツはウイングカラー(立襟)、タイはシルバーグレーのアスコットタイ、靴は黒革のストレートチップを合わせる。

タキシードは夜の準礼装である

タキシード(ブラックタイ)は男性の夜間の装いとしては正礼装に次いで格式の高い礼装(「準礼装」という)である。恐らく(少なくとも日本では)、タキシードは礼装の中で最も知られている装いだろう。

英国ではタキシードを「ディナージャケット」というように、本来の「タキシード」はそのジャケットのみを指す「礼服」であり、タキシードを中心に構成する装い(礼装)を「ブラックタイ」という。しかし、日本ではタキシード=ブラックタイである。

すなわち、礼服である「モーニングコート」が中心の礼装が「モーニング」であり、礼服であるタキシード(ディナージャケット)が中心の礼装が「ブラックタイ」という整理になるが、モーニングコート=モーニング、タキシード=ブラックタイでも文脈を取り違えることはない。

「ブラックタイ」は黒の蝶ネクタイを指し、それがタキシードを着こなすときの代名詞になっている。タキシード(ブラックタイ)の構成では、ジャケットとパンツは共布の黒無地が一般的だ。

ジャケットは一見して現代のスーツと似ているが、スーツでは上襟と下襟(ラペル)が折り返しになっている(「ノッチドラペル」または「ピークドラペル」)に対して、上襟と下襟がつながる「ショールカラー」が正式とされる。

ベストの代わりにベストを簡略化した「カマーバンド」という腹部に巻く飾り帯を付ける。靴はエナメル(パテントレザー)のオペラパンスを合わせる。

礼装は時間と格式で分けられる

モーニングやタキシード(ブラックタイ)といった装い(礼装)は好きなように各人の好みで着られているわけではなく、その装いで参加するイベント(の時間)と、その装いを使う人の立場(格、格式)によって使い分けられている。

礼装の使い分けは洋装文化「そのもの」であるから、元来は洋装文化にない日本において、礼装を使い分けるという認識は浸透していない。しかし、洋装文化のある国や、それらの国の人を交えた式典や公的なパーティーでは、招待状にプロトコール(ドレスコード)が明記される。

「昼の礼装」と「夜の礼装」は共存できない

昼の準礼装は(日本では)知られていない。夜の正礼装はタキシードに取って代わった。それでもプロトコールは時間に厳格である。したがって、「昼の礼装」と「夜の礼装」は共存できない

昼の準礼装は(日本では)知られていない

日本には昼の正礼装「モーニング」と夜の準礼装「タキシード」の違いを説明できる人が少ないが、それに輪をかけて昼の準礼装「ディレクターズスーツ」に関しては、その礼装の存在すら知る人が少ない。

実際、昼間の儀式となるとモーニング一択になることがほとんどで、外務省のプロトコールに関する説明でも、昼の準礼装については記載がない。

ディレクターズスーツは礼装の中でも最も現代スーツに近いスタイルであり、「礼装」という差別化が難しいことが普及していない背景にあるのだろう。

確かに、ディレクターズスーツはモーニングを簡略化したもので、その構成はモーニングのコールパンツにモーニングコートの代わりとしてダークスーツと同じ黒無地またはダークグレーのジャケット、無地のシルバーグレーまたはオフホワイトのベストからなる。

シャツはウイングカラー(立襟)ではなくレギュラーカラー(折襟)であり、モーニングの下半身とビジネススーツの上半身のニコイチとも表現できる。靴はモーニングに準ずる。

欧米ではブラックスーツを礼装とは見ないが、日本ではブラックスーツを冠婚葬祭の礼装と見なすことが多く、黒無地のジャケットではブラックスーツとの差別化ができない。

夜の正礼装はタキシードに取って代わった

話をややこしくするのが、礼装は時代とともに変化するということだ。プロトコールには夜の正礼装として「燕尾服(ホワイトタイ)」があっても、実態として燕尾服が使われることがなければ、タキシードを実質的な正礼装としてもおかしくない。

実際、夜の正礼装=燕尾服(ホワイトタイ)という認識は確立しているものの、パーティーのドレスコードでは燕尾服よりもタキシードが指定されることが圧倒的に多いという。そのことから、近年はタキシードが夜の正礼装に昇格したと見なす向きがある。

燕尾服(ホワイトタイ)の構成は、「テイルコート(日本では「燕尾服」)」というモーニングコートと同じく後裾の長いジャケット、ジャケットと共布のパンツ、白無地の襟付きベストからなる。

モーニングコートとテイルコートの違いは、モーニングコートが前裾から後裾にかけて斜めに切られているのに対して、テイルコートの前裾は四角く切られているところにある。

それから、「ホワイトタイ」は白の蝶ネクタイを指し、白のベストと合わせてジャケットとパンツの黒に対するコントラストが印象に残る。

それでもプロトコールは時間に厳格である

「昼の礼装」としてモーニングに準ずるディレクターズスーツが知られていないことや、「夜の礼装」ではタキシードが燕尾服に取って代わったことを差し引いても、プロトコールでは昼夜の礼装を明確に分けている。

具体的な例としては、天皇陛下が内閣総理大臣や最高裁判所長官を任命する儀式「親任式」では、(夜に行われることもあるが)モーニングを使うのが通例である。

天皇・皇后が国賓をもてなす宮中晩餐会の参加者は燕尾服またはタキシードを使う。日本国外ではオーケストラの指揮者やノーベル賞授賞式の参加者が使う。

つまり、一つの儀式または宴の中で、モーニングまたはディレクターズスーツと燕尾服またはタキシードが共存することはない。モーニングやディレクターズスーツは昼間の儀式、式典に限定され、燕尾服やタキシードは夜間の宴、観劇、音楽会に限定されている。

しかし、必ずしも「昼」と「夜」という分け方は適当でないかもしれない。「昼の礼装」と「夜の礼装」が共存することはないが、その使い分けは「昼」か「夜」ではなく、「儀式」か「宴」でも分けられるからだ。

この点は飯野高広が「紳士服を嗜む」に書いている。親任式が夜に行われるときもその参加者がモーニングなのは、親任式が「儀式」であるからというのは納得がいく。

プロトコール(ドレスコード)から服装がもっとよく分かる

礼装は「全体」が大切であることを教える。礼服と(ビジネス)スーツは切り離せない。本来の型を知っているから自分の型を作れる。したがって、プロトコール(ドレスコード)から服装がもっとよく分かる

礼装は「全体」が大切であることを教える

礼装は、ジャケットやパンツといった「部分」ではなく、カフスボタンやポケットチーフといった身に着ける小物や、それらのディテールまでも細かく決めた「全体(トータルコーディネート)」で表現する。

例えば、礼装ではパンツの裾は折り返しのないシングルが原則だし、昼の礼装では靴は黒革のストレートチップであるのに対し、夜の礼装ではそれがエナメルのパンプス(オペラパンス)になる。

「モノ」としてのモーニング(コート)やタキシードは「礼服」であるが、それらのジャケットやパンツ「だけ」を使うことはないから、単に「モーニング」「タキシード」と言っても、全体の装いとしての「礼装」を指すことができるのだ。

礼服と(ビジネス)スーツは切り離せない

現代の(ビジネス)スーツは、礼服が大衆化するときに起こった簡略化の結果である。だから、スーツには礼服のエッセンスが詰まっているし、服装としてのスーツ(スタイル)は礼装の考え方に準ずることが多い。

例えば、昼の礼装では黒革のストレートチップを履くことから、ビジネスで使うスーツでも黒革のストレートチップは最も格式が高いという認識があり、実際のビジネスでも多用されている。

礼服のパンツで裾をダブルにすることはないから、スーツを礼服から差別化するためにパンツ裾をダブルにすることもある。このように礼服はスーツを考えるとき、ある種のベンチマークとして使える。

本来の型を知っているから自分の型を作れる

「一般的に結婚式の新郎はタキシードを使う」からタキシードを使うのと、「昼の結婚式では昼の礼装を使うものだが、今の時代は昼の結婚式でもタキシードを使うことが多い」ことを考慮してタキシードを使うのは全く違う。

後者の考えから結婚式のタキシードを選ぶなら、本来のタキシード(ブラックタイ)から色やディテールを変えることで、自分らしい納得のいく服装ができる。

プロトコール(ドレスコード)が指定されているときは別として、儀式や宴では「礼装」かくあるべきと頭でっかちにならず、変化を受け入れながらも本来の型を知り自分らしさを表現するのが今のやり方である。