麻布テーラーのタキシードは初めてのフォーマルにおすすめしたい

麻布テーラーはこれからの動向が注目される企業だ。タキシードをレンタルで終わらせるのはもったいない。麻布テーラーのタキシードはQCD(F)が高い。したがって、麻布テーラーのタキシードは初めてのフォーマルにおすすめしたい

麻布テーラーはこれからの動向が注目される企業だ

麻布テーラーは「新興」テーラーではない。民事再生と商標権の譲渡を経験している。グループ全体が買収されてしまった。したがって、麻布テーラーはこれからの動向が注目される企業だ

麻布テーラーは「新興」テーラーではない

麻布テーラーは1999年に「メルボメンズウェアー」という会社が始めたオーダースーツの専門店だ。2022年現在で23年の歴史しかないように見えるが、メルボメンズウェアーの生い立ちから見ると「老舗」といっても過言ではない。

メルボメンズウェアーの母体は「メルボ紳士服」という紳士服メーカーに見ることができる。メルボ紳士服は1918年に創業した「平野屋羅紗店」を前身とする歴史ある企業だった。

そのメルボ紳士服の子会社として1969年に創業したのがメルボメンズウェアーである。だから、麻布テーラーは「紳士服を作ること」に関しては、平野屋羅紗店から数えて100年以上の歴史がある。

民事再生と商標権の譲渡を経験している

麻布テーラーは、その事業を始めた早々からさまざまな変化に直面してきた。一つは、2001年に麻布テーラーを運営するメルボメンズウェアーおよびその親会社であったメルボ紳士服の民事再生だ。さらに、2005年には伊藤忠商事による麻布テーラーの商標権取得がある。

元々、メルボグループは高級路線で勝負をする企業だったが、洋服の青山を展開する「青山商事」や紳士服のはるやまを展開する「はるやま商事」といった価格を重視する後発企業に、時代の潮流とともに押されその経営は悪化していた。

そして2001年には、経営悪化を理由とする民事再生が適用されることとなった。しかし、1999年に始めた麻布テーラーは好調だった。この麻布テーラーが評価されたことで伊藤忠商事からも資金が投入されることになったのだろう。

伊藤忠商事が商標権を取得した2005年に13店舗だった麻布テーラーは、2022年現在で26店舗と、2000年代から2010年代にかけてメルボグループが経営を再建する際の立役者であったとも言える。

グループ全体が買収されてしまった

今年2022年には業界全体を揺るがす衝撃があった。それがメルボグループの競合であった青山商事による、麻布テーラー(メルボメンズウェアー)を含むメルボグループの買収だ。

今でこそ洋服の青山(青山商事)もオーダースーツ事業を始めているが、元々は低価格の「吊しのスーツ」で成長してきた企業である。吊しのスーツとはいわゆる既製服のことで、フルオーダーにしろパターンオーダーにしろ、吊しのスーツはオーダースーツとはターゲットが異なる。

麻布テーラーはオーダースーツの専門店だし、その(元)親会社であるメルボ紳士服も高級路線の紳士服メーカーであった。一消費者の視点から見ると、吊しのスーツより高いオーダースーツのテーラーが、吊しのスーツを販売する企業の子会社になることにモヤモヤしたものを感じることだろう。

タキシードをレンタルで終わらせるのはもったいない

日本では結婚式のタキシードをレンタルすることが一般的である。タキシードはフォーマルの中でも汎用性がありオーダーもできる。したがって、タキシードをレンタルで終わらせるのはもったいない

日本では結婚式のタキシードをレンタルすることが一般的である

日本ではビジネスでスーツを着ることが欧米よりも一般的なのに対して、フォーマルで礼装を着ることは一般的ではないというか、礼装を求められる場が少ない。だから、結婚式で求められる礼装(モーニングやタキシード)はレンタルすることが主流だ。

実際、結婚式の新郎の93.5%はタキシードを着用し、そのタキシードをレンタルする割合は93.3%というデータもある(ゼクシィ 結婚トレンド調査2019 調べ)。1

タキシードはフォーマルの中でも汎用性がありオーダーもできる

礼装は「時間」と「格式」で分けられるが、日本で一般人でも参加できる儀式は「婚」「葬」くらいなのに対して、タキシードを使う宴は会社員でも参加することがあるだろう。それから、タキシードは宴のための礼装であるが、日本では結婚式で使うことができるし、レンタルやオーダースーツと大差ない価格でオーダーすることができる。

前述したデータでも新郎の93.5%が結婚式でタキシードを着用しているし、世界的に見ても本来は夜の(宴の)正礼装であった「テイルコート(燕尾服)」はタキシードに取って代わられている。

タキシード(既製品)をレンタルしたときの費用は平均して12.8万円とそれなりに高価だから、タキシードと小物を自前でそろえても十分に勝負できる可能性がある。

それから、オーダータキシードは結婚式の後に改造してスーツに直すことができるくらい、大きな作りではスーツと大差がない(実際にはそれだけタキシードの仕様が簡易的なものになると想定されるためおすすめはできない)。

麻布テーラーのタキシードはQCD(F)が高い

麻布テーラーは品質を担保している。タキシードも手頃にオーダーできる。仕立屋なのに気軽にオーダーできる。したがって、麻布テーラーのタキシードはQCD(F)が高い

麻布テーラーは品質を担保している

麻布テーラーはメルボグループ内に(現在は青山商事のグループ企業として)「メルボ紳士服工業」という縫製工場を持っている。メルボ紳士服工業は、50年以上の歴史ある縫製工場を国内2カ所で経営し、麻布テーラーが東西で受注したオーダースーツを作り分けている。

その一つが1969年に創業した滋賀工場で、年間45,000着のスーツを生産している(2020年)。もう一つは1972年に創業した広島工場で、こちらも滋賀工場と同じ規模でスーツを生産している。

いずれの工場でも古くからある特殊ミシンを使った熟練者の手作業が生きる一方で、オートメーション化を進めるなどして工業化による生産効率の向上も進めている。

麻布テーラーには自身の生い立ち(1999年の事業スタート)よりも以前から稼働する自社工場があることで、受注したオーダースーツの品質を担保していると言える。

タキシードも手頃にオーダーできる

麻布テーラーのフォーマルは「セレモニアルウェア」として分かりやすく展開している。例えば、タキシードは60,500円(税込)〜オーダーでき、タキシードに必要な小物一式(靴と靴下は除く)は33,000円(税込)で販売されている。

60,500円(税込)のタキシードの価格内訳は、オーダースーツの最低価格44,000円(税込)+タキシードオプション16,500円(税込)となっている。タキシードはジャケットに「拝絹地」やパンツに「側章」が入っているため、通常のスーツより工程が増えるからだろう。

オーダースーツと同じように、生地のグレードを上げるとタキシードの価格も上がる。このとき、縫製代やタキシードオプション16,500円(税込)の価格は変わらない(縫製代や麻布テーラーの利益が生地のグレードアップ代に含まれているとも言える)。

例えば、最低グレード(=オーダースーツの最低価格)から一つ上のグレード生地にすると、最低グレード44,000円(税込)+一つ上のグレード生地11,000円(税込)+タキシードオプション16,500円(税込)=71,500円(税込)となる。

タキシードは「黒」の「無地」で作ることが多いが、生地によってその質感(光沢や肌触り)は千差万別なので、実際に店舗で確認してから決めることになる。

タキシードに必要な小物一式は「蝶ネクタイ」「サスペンダー」「カマーバンド」「カフリンクス」「スタッズボタン」「チーフ」の6点がセットになったものだ。

オーダースーツの副資材や小物を取り扱うヤマモトが展開する「EXCY」というブランドのものと思われる。EXCYでもこれらの小物は個別にそろえることができるが、一部の小物には麻布テーラーのロゴが入っていたり、必要なものをまとめてリーズナブルに買えることは利点である。

仕立屋なのに気軽にオーダーできる

麻布テーラーは自社工場があることで納期(調整)の融通が利きやすいだけでなく、単純に店舗数が多いこともあり思い立ったら即行動に対応してくれる。

実際、麻布テーラーは2022年現在で国内26店舗がある。そのうち、東京11店舗、大阪4店舗と出店は主要都市がほとんどであるが、主要都市もしくはその近郊に住んでいる場合はその恩恵にあずかることができる。

麻布テーラーはイージーオーダーを基本とした仕立屋であり、店舗(スタッフ)は顧客を採寸し要望を聞いてデザイン(パターン)を決めることが仕事だ。

企業としては、店舗運営を採寸とヒアリングに限定し、その生産は工場に委託することでバリューチェーンを最適化できるのかもしれないが、店舗スタッフの技術・知識が上がりにくいといった課題もある。

麻布テーラーでフォーマル(セレモニアルウェア)をオーダーするときは、⽇本フォーマル協会認定の「フォーマルスペシャリスト」を取得したスタッフが提案するとしている。

しかし、この資格は実務経験を伴わないため、対応するスタッフのこれまでの提案経験が見えないところには不安が残るのも事実である。