1byoneの体重計はタニタやオムロンと戦略が異なるが価値は同じだ

1byoneは「コストリーダーシップ戦略」を取っている。タニタやオムロンは「差別化戦略」を取っている。「価格」と「価値」は比例しない。したがって、1byoneの体重計はタニタやオムロンと戦略が異なるが価値は同じだ

1byoneは「コストリーダーシップ戦略」を取っている

体重計はコモディティ化した。1byoneの体重計は必要十分である。タニタやオムロンよりも安く買える。したがって、1byoneは「コストリーダーシップ戦略」を取っている

体重計はコモディティ化した

家庭用の体重計は歴史が長く、その間に人が使える技術も格段に進歩した。長い時間と技術の進歩は、体重計がコモディティ化するには十分な資源となった。

初期の家庭用体重計はアメリカで普及して、その後タニタが日本へ持ち込んだ。タニタが日本で体重計を作り始めたのが1959年だから、日本の体重計には現在までで60年以上の歴史がある。

それから、今や体重計よりも複雑な構造を持つであろう家電や電子機器でさえ、中国企業はすぐさま自社で製品化できてしまう。つまり、世界的にモノがコモディティ化するスピードは格段に早くなっている。

1byoneの体重計は必要十分である

コモディティ化したのは体重を測る「体重計」としての機能だけではない。体脂肪率や内臓脂肪レベルといった「体組成計」としての機能もコモディティ化していて、1byoneの体重計も体組成計ができることはできるため、体組成計といった方が正しい。

1byoneの体重計は、各社の体組成計が測定できる体脂肪率やBMI、基礎代謝量、骨量、体水分率、筋肉量、内臓脂肪レベルなどを余すことなく測定できる。それに加えて、Bluetoothを使ってスマホ専用アプリ「1byone Health」へ測定したデータを連携することもできる。

1byone Healthには体重計で測定したデータをスマホへ転送する(取り込む)機能と、転送されたデータをダッシュボードやグラフで確認する機能がある。また、1byone HealthからiOS標準アプリ「ヘルスケア」へ自動でデータを連携させることもできる。

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タニタやオムロンよりも安く買える

コモディティ化したモノを売る企業は薄利多売の経営戦略を取ることが多い。コモディティ化しているということは、自社だけでなく他社も同スペックのモノを売ることができるから、この競争で勝つためには価格を下げるのが一つの手段になる。

1byoneの体重計を、日本で体重計(体組成計)を作る大手タニタ、オムロンの製品と比べると、同スペックの体重計では二社の製品の三割価格で買えることが分かる。

体重から体脂肪率や内臓脂肪レベルなどを測定できて、Bluetoothを使ったスマホへのデータ連携もできる製品は、タニタやオムロンだと最低でも7,000円前後であるのに対して、1byoneは2,000円前後である。

タニタやオムロンは「差別化戦略」を取っている

タニタやオムロンは機能や仕組みが他社とは異なる。「細かく分かる」は機能の違いだ。専用アプリで囲い込みをしている。したがって、タニタやオムロンは「差別化戦略」を取っている

タニタやオムロンは機能や仕組みが他社とは異なる

タニタやオムロンなど大手は、コモディティ化した体重計・体組成計の市場で戦うために独自の「機能」や「仕組み」を導入している。タニタやオムロンが武器にしたのは「精度」ではない。

各社の体重計で体重を測れば分かるが、どの体重計で測った体重にも大きな差はない。体重計において、体重を測る構造上の仕組みは同じだからだ。

もし、使う体重計ごとに差があったとしても、同じ体重計を使い続けるなら自分の体重変化を見るだけだから問題ない。体重は他人と比べるものではなく、過去の自分と比べるものだからだ。

「細かく分かる」は機能の違いだ

タニタやオムロンの上位モデルには、体重を50g単位で測定できるものがある。これはあくまで機能であって、体重が50g単位で分かるからといって精度が高いわけではない。

実際、体重が50kgの人にとっての50gは体重の0.1%にすぎないから、50g単位で体重が分かったところで結果は誤差の範囲内である。

体の水分量は一日の中でも変化するため、体重や体脂肪率は測定する時間でも大きく変わる。例えば、体重を朝に測ったときと夜に測ったときでは1〜2kg変わっていることもあり、体重が50kgの人であれば2〜4%の変化になる。

この変化の大きさと比べれば、50gが分かることにそれほどの重要性はないことが分かる。50gが分かっても、より筋肉を付けたり、より体脂肪を落としたりできるわけではない。

他には体重計にのってから体重を測るまでの時間が短いなどの細かい機能もあるが、各社の体重計を横に並べて使い分けでもしないかぎり、その違いには気づきもしないだろう。

総じて、これらの機能は「あったらいい」機能であって、「あるべき」機能ではない。買い換えたときに初めてその違いに気づく程度の機能である。

専用アプリで囲い込みをしている

タニタやオムロンは体重計や体組成計以外の健康機器も作っていて、スマホのアプリでデータ管理をする場合は、他の健康機器も同社の製品にした方が都合がいい。

現状では各社アプリに対応する製品は、各社のアプリでしかスマホへデータを転送できない。だから、二つ以上の健康機器から測定したデータを転送したいとき、それぞれが別会社の製品だと二つのアプリを使ってデータを転送しなければならない。

だからこそ、各社はアプリの完成度を上げて自社のプラットフォームを使わせようとしている。タニタは「Health Planet」で、オムロンは「OMRON connect」だ。

タニタ、オムロンともにスマホのアプリに対応する製品を増やしていて、両社とも「血圧計」「活動量計」「体組成計」は展開している。オムロンにはさらに「体温計」「パルスオキシメータ」もある。

無論、二つ以上のアプリを使ってデータを転送する手間を惜しまず健康機器にかかるコストを下げたいなら、最も安い健康機器を選べばいい。しかし、体重計のように毎日使うものはストレスの積み上げが大きくなることを理解するべきだ。

「価格」と「価値」は比例しない

価格が上がると精度も上がるなら価値も上がる。価格が上がっても精度は上がらない。したがって、「価格」と「価値」は比例しない

価格が上がると精度も上がるなら価値も上がる

もし、1%の誤差も出さず絶対的に正しい体の組成が分かる体重計(体組成計)があるなら、高い金を出してもそれを買う価値はあるだろう。それなら、他人の体の組成の変化を参考にして体づくりもできる。

例えば、「体重」を測る技術は確立していて、人が体重計にのると体重計の中にある金属がひずむ。この金属の「ひずみ」を電気的に測定すること(「力」を「電気信号」に変換すること)で体重は測られている。

だから、体重はどの体重計を使っても大きく変わることがなく、ある程度は信頼のできる「指標」として体づくりに使われている。しかし、「体脂肪率」を指標として使う人は少ない。

そもそも「体脂肪率」とは、人の体の中にある体脂肪の割合である。体重は人の体の質量をそのまま測るだけだから難しくないが、体脂肪は人の体の「一部」の質量を測るわけだから、体重のように簡単には測れない。

この体脂肪率の「絶対的な」精度が体重計によって変わるなら、精度の高い体重計は体づくりをする人たちの間でスタンダードになっていてもおかしくない。

価格が上がっても精度は上がらない

「体重」を測る精度は各社が同じレベルにあるため価格と精度が比例しない。そして、もう一つの指標である「体脂肪率」を測る精度も、推測でしか計算できないため価格と精度は比例しない。

家庭用の体重計で体脂肪率を測るとき、体重計はBIA(Bioelectrical Impedance Analysis)という技術を使っている。BIAは人の体を均質な円柱に見立てた上で、電気の伝導性から体水分と体脂肪を測定する。

まず、この点において人の体は「均質な円柱」ではない。だから、電気の伝導性を調べてから統計データを使って体脂肪率を計算する。つまり、この統計データが異なれば体脂肪率も異なる。

そして、この統計データは各社が独自にサンプリングしたデータであるから、各社の体重計で測定した体脂肪率が大きく異なる原因にもなっている。さらには、どの会社の統計データが確からしいかを議論することもできないため、会社によって優劣もつけられない。

実際、オムロンの体重計はタニタのものより体脂肪率が5%も高く測定されることがある。1byoneはタニタに近いが、これは傾向であって絶対的なものではないため、どちらがいいとも言えない。

結局のところ、体脂肪率を絶対的に正しく測定することはできないのだから、同じ会社の同じ体重計を使い続けることが唯一の解決方法になる。たとえ体脂肪率が他社の体重計よりも高かろうが低かろうが、自分の体脂肪率の推移だけは信頼できるものだからだ。

体重計や体組成計がコモディティ化したといっても、体重や体脂肪率を測定する技術は変わっていない。逆に、これらの技術が変わらなかったからこそ、体重計や体組成計がコモディティ化したとも言える。