クロケットジョーンズのオードリーは誰のため?

クロケットジョーンズの革靴は、高価格帯のドレスシューズのなかでも比較的リーズナブルなため人気がある。今回はそのクロケットジョーンズと、同社を代表する定番のストレートチップであるオードリーについてまとめる。

スーツに合う10万円の革靴から選ぶなら候補に入れるべきだ

革靴を選ぶときの基準はなにか?多くの人は、はじめに革靴の用途から考える。たとえば、ビジネスなのか?カジュアルなのか?ビジネスであればスーツに合わせるのか?などだ。または、ビジネススーツに合わせる革靴が欲しいという欲求が、先にあるかもしれない。

用途につぐ基準は、予算である。革靴は、上をみればキリがないほどに価格の幅が広い。そのため、ビジネススーツに合わせる10万円までの革靴を買おうというところまでは、自分なりの基準を設定することになる。

革靴の用途と予算、ふたつの基準を設定したとき、「スーツに合う10万円の革靴から選ぶ」となるなら、クロケットジョーンズのオードリーはその候補に入れるべきだ。その理由は下記のとおりである。

  • 予算10万円がターゲットである
  • ビジネスのアイコンとなりえる
  • カスタマーファーストである

予算10万円がターゲットである

革靴の購買層には、革靴に「こだわる層」と「こだわらない層」がいる。革靴に「こだわる層」がはじめて購入した革靴からの「ステップアップ」を考えるとき、その予算は7〜10万円に設定されることが多い。オードリーを展開する「ハンドグレードコレクション」は、7〜10万円の価値が分かるユーザーのためにある。

靴にこだわらない層は議論の外にいる

日本の革靴市場は、ふたつの大きなセグメントに分けることができる。それは、革靴に「こだわる層」と「こだわらない層」だ。クロケットジョーンズがターゲットにしているのは、革靴に「こだわる層」の顧客である。靴は履きつぶし、可能なかぎり安くて長持ちする靴がいいならば、これ以降の議論は関係がない。

クロケットジョーンズの革靴は、本国のイギリスでも230£からと、そのほかの消費財と比べてもけっして安い買いものではない。また、日本へ輸入されてくる革靴には30%の関税がかけられる。つまり、日本のクロケットジョーンズはさらに高い買いものとなる。

関税を考慮した日本での実売価格は、最低でも4万円台からだ。これでは、1足4,000円の革靴を10足購入することと比べることはできない。どれだけクロケットジョーンズの耐久性が高くても、コストパフォーマンスでは議論ができないからだ。

靴にこだわる層がステップアップする

革靴にこだわる層セグメントは、さらに革靴の購入予算で分解することができる。革靴にこだわる層を予算で分解すると、はじめに3〜6万円のセグメントがあり、そのつぎが7〜10万円のセグメントになる。ふたつめの7〜10万円セグメントには、はじめての革靴から「ステップアップ」したいユーザーがいる。

はじめて革靴に興味をもち靴を選ぶとき、その価格帯は3〜6万円であることが多い。修理することを前提としたグッドイヤーウェルテッドの最低価格が、3万円ほどだからだ。3万円の革靴といっても、けっして安い買いものではない。1万円で革靴が買える時代に、その3倍の対価を支払うことにためらいを覚えるのはふつうだ。

しかしながら、一度このセグメントへ足を踏みいれると、より高価格帯の革靴に興味をもつことも珍しくない。そのとき、ステップアップとして設定される革靴の購入予算は7〜10万円台になる。革靴に違いを見いだすためには、この価格帯が順当なのだ。

違いに価値を見いだせると顧客になる

クロケットジョーンズにはふたつのグレードがある。ふたつのグレードには価格差があり、オードリーはより高価格なグレードである「ハンドグレードコレクション」の製品だ。「ハンドグレードコレクション」がターゲットにしている顧客とは、よい革靴の違いが分かり、その違いに価値を見いだせる顧客である。すなわち、革靴に「こだわり」、はじめての革靴から「ステップアップ」してきたユーザーである。

クロケットジョーンズのもうひとつのグレードを、「メインコレクション」という。「メインコレクション」は「ハンドグレードコレクション」よりも低価格なグレードではあるが、けっして安かろう悪かろうな製品ではない。ふたつのグレードの違いは、それまでによい革靴を履いたことがなければ、見極めることがむずかしい。

「メインコレクション」と「ハンドグレードコレクション」の価格差が、ユーザーにステップアップという満足感をあたえる。そして、「ハンドグレードコレクション」がもつ特長は、つぎの項で説明するように、分かる人には分かるものばかりである。

ビジネスのアイコンとなりえる

ビジネスのアイコンとなりえる革靴は、「履きごこちや作りの質」と「普遍的なデザイン」の両方を兼ね備えていなければならない。いずれかでも欠けていれば、それはビジネスのアイコンとはなりえない。そして、オードリーはその両方を兼ね備えた革靴であるといえる。

ビジネスに申し分ない質を備えている

革靴をいくつか履くと、それまでの革靴に対する不満や、自分の足型のクセを知る。それらのユーザーニーズを満足させることは、簡単なことではない。しかし、オードリーには革靴の不満や足型のクセを知っているからこそ見いだせる「価値」がある。

フルソックライニング

ライニングはつま先までのフルソック仕上げである。フルソックライニングは、靴と足のフィッティングを安定させるだけでなく、ハーフソックで起こりえる問題を防ぐことができる。たとえば、ソックライニングが剥がれてしまうようなことだ。

オークバークソール

ソールには、バークタンニングというもっとも古く伝統的な方法で鞣した革を使用している。オークバークソールのよさは耐久性にある。古く伝統的な製法で鞣されるということは、化学薬品や機械を使わずに耐久性を上げるための工夫がつまっているということだ。

ヒドゥンチャネル

ソールの縫い目を隠した仕上げである。高級革靴によく見られる仕上げで、後述する半カラス仕上げと組み合わされることも多い。

半カラス仕上げ

ソールの地面と接地しない絞り部分だけを、黒く着色した仕上げである。ヒドゥンチャネル+半カラス仕上げのソールは、コントラストが強調されて引き締まった印象になる。

ジェントルマンズコーナー

ヒールがパンツを傷つけないよう、ヒール内側の縁を丸くとった仕上げである。名前のとおり、細かな気配りといえる。

普遍的なデザインを採用している

オードリーには、ストレートチップというビジネスの定番にこそ必要な普遍性がある。

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オードリーの普遍性を特徴づけているのが、絶妙なバランスのセミスクエアトゥだ。角度によってはラウンドにも見えることから、スクエアの硬い印象は和らげつつも、ラウンドの野暮ったさをなくしている。ビジネスだけでなく、フォーマルでも使用することができるデザインだ。

オードリーの木型は、2001年に開発された「ラスト337」である。クロケットジョーンズは「ラスト337」以降もさまざまな木型を開発している。そのなかで多くの木型が改廃しているが、「ラスト337」はイングリッシュクラシックのコアモデルとして使いつづけられることが約束されている。

オードリーにかぎらず、クロケットジョーンズのデザインを普遍的と評価する声は多い。*1

C& j's are a steady and quintessential shoe ...
(クロケットジョーンズの靴は安定していて典型的なデザインの靴だ・・・)

My 10-year old pair of C&Js is still in excellent shape ...
(10年ものの靴でも、クロケットジョーンズは未だに美しい形をしていて・・・)

カスタマーファーストである

オードリーという革靴は、ターゲットが明確でポジショニングもできている。それでは、同価格帯の競合製品と比べるとどうだろうか?ここでは、クロケットジョーンズというブランドがいかにユーザーへ寄り添ったブランドであるか、つまり、カスタマーファーストを心がけた企業であるかをまとめよう。

さまざまな足型に対応している

既製靴をつくるシューメーカーにとって、さまざまな足型に対応できる靴をつくることは、永遠の課題である。しかしながら、オードリーにかぎらず、クロケットジョーンズはこの課題を解決することを得意としている。

クロケットジョーンズの革靴がさまざまな足型へ対応できている根拠のひとつは、世界でもっとも多くの木型を保有していることだ。クロケットジョーンズはその長い歴史のなかで、海外展開に力を入れてきた企業でもある。

まず、クロケットジョーンズには、1879年の創業から140年以上も革靴をつくり続けてきた歴史がある。また、1962年における売上の19%が輸出品であった。さらに、1977年にはその比率が30%にまで上がっている。

当時クロケットジョーンズが重要視したマーケットには、日本も含まれている。つまり、欧米だけでなく、世界中の足型に対応できる革靴をつくり続けてきたのだ。

アクセシビリティが高い

現在でも、クロケットジョーンズは日本での販売に力を入れている。日本での知名度は高く、輸入代理店やクロケットジョーンズを取り扱う小売店は多い。つまり、靴の専門店や量販店で容易に手に取ることができる。

革靴は試着なしで購入することができない。どれだけ高価な革靴であっても、足型に合わないということはある。したがって、アクセシビリティが高いということは大切な要素だ。

また、流通量が増えることで、ユーザーにとっては価格競争が起こることを期待できる。希少性の高い輸入靴のままでは、ユーザーフレンドリーとはいえない。

オードリーの質感を維持するには?

オードリーにかぎった話ではないが、せっかくよい革靴を購入しても、メンテナンスを怠ればその価値はなくなってしまう。

デイリーメンテには手を抜かない

デイリーメンテナンスに手を抜いてはならない。具体的には、履いたらブラッシングをして、その日のうちに汚れを落とす。また、シューツリーを使用することで型くずれを防ぎ、履きじわを伸ばす。

革には定期的な手入れをする

履いていようがいまいが、定期的な手入れをする。定期的な手入れを怠ることは、革の寿命を確実に縮める。定期メンテナンスでは、リムーバーをつかって汚れを落とし、クリームで革に栄養を補給する。上質な革を使用するオードリーは、これだけでも十分に艶がでる。

信頼できるところで修理する

ソールのような消耗パーツは、定期的にすり減り状況を確認する。アウトソールだけでなくミッドソールまですり減らしてしまうと、修理料金が高くなるか、修理することすらできなくなってしまうこともある。

経験上、簡易的な修理をしてくれるチェーン店は、修理したソールの減りが早い。修理料金は安くても、そのつぎに修理するまでの期間が短くなることから、最終的には割高になってしまうこともある。

革靴の修理は、しっかりと革靴ごとの特徴を知りつくしたプロに依頼するべきだ。たとえば、ユニオンワークスなどが有名だ。修理料金は高くつくが、トータルコストで考えればチェーン店よりもメリットがでる。