ジョンスメドレーはユニクロのニットを駆逐できるほどは強くない

ジョンスメドレーはニットの王様である。ユニクロのニットに圧倒的な品質で勝つ。ニットの品質は価格の差を埋められない。したがって、ジョンスメドレーはユニクロのニットを駆逐できるほどは強くない

ジョンスメドレーはニットの王様である

英国王室から信頼されている。最高品質のニットを作っている。非常に高価である。したがって、ジョンスメドレーはニットの王様である

英国王室から信頼されている

ジョンスメドレーは2013年に英国王室からロイヤルワラントを与えられている。ロイヤルワラントとは、王室御用達、王室に商品を供給することが許されているという意味だ。

一度ロイヤルワラントを与えられた企業であっても、5年ごとにその認定は精査して更新される。ジョンスメドレーは2013年に英国女王陛下からロイヤルワラントを与えられた後、2021年には英国皇太子殿下からロイヤルワラントを与えられている。

ジョンスメドレーが英国王室からここまで信頼されている背景の一つとして、その長い歴史がある。2021年現在までにジョンスメドレーには230年以上の歴史があるのだ。

ジョンスメドレーは1784年にイギリスのイングランドで設立された。設立当初は繊維を糸にする「紡績」や、糸を「編む」または「織る」こと(つまり、生地作り)に力を入れていた。

その後、設立者John Smedleyの息子が工場の経営を引き継ぎ、そこから高品質のニットウェアを作ることに力を入れ始めた。

ジョンスメドレーでは、一つのニットが出来上がるまでの全工程を自社工場で行っている。それから、ニットの原材料には最高品質の素材を使うことを理念としている。

ジョンスメドレーの工場は拡大と近代化を進め、19世紀後半には当時最先端の紡績機や編み機で製造されたジョンスメドレーのニットが高い評価を受けた。これによりジョンスメドレーのニットは世界に流通する。

現在もジョンスメドレーの工場は高い品質を維持し、ポールスミスやバーバリー、ブルックスブラザーズといった有名ブランドのOEM製造も行なっている。

最高品質のニットを作っている

前述したように、ジョンスメドレーのニットには最高品質の素材が使われている。具体的には、最高品質の「ウール」が使われており、このウールが熟練の技術で生地となり、最高品質のニットとして世界に供給されている。

ジョンスメドレーが使う最高品質のウールは、メリノ種から取れる「エクストラファインウール」の中でも、ジョンスメドレーの厳格な基準で選別されたものだけだ。

ウールは、メリノ種といわれる「ウール(羊毛)の生産を目的に飼育される羊」から作られる繊維で、その繊維の太さによって五種類に分類されている。

エクストラファインウールはウールの中では二番目に繊維が細いものだ。エクストラファインウールの直径は18.5〜19.5ミクロンであり、人の髪の毛が50〜100ミクロンであることを考えると、エクストラファインウールがどれだけ細いか分かるだろう。

さらに、厳選された最高品質の素材がジョンスメドレーの技術でウォッシングされる。ウォッシングは羊が成長する過程で蓄積された汚れを取り除く工程だ。この工程でもジョンスメドレーの高い製造技術が分かる。

非常に高価である

ジョンスメドレーの素材へのこだわりは商品価格にも影響する。それから、最高品質のニットを作るためには製造工程にもこだわりがあり、そのこだわりは一つのニットが出来上がるまでの時間となり、ジョンスメドレーの商品価格を押し上げている。

実際、ジョンスメドレーではニットの原材料を調達してからニットとして出来上がるまでに一年かかるといわれている。この時間は実際の稼働時間を意味しないが、時間コストは相応に高くなる。

結果として、ジョンスメドレーのニットは30,000円前後が流通価格になっている。日本ではユニクロのニットが3,000円で買えるのだから、およそ10倍の価格である。

ユニクロのニットに圧倒的な品質で勝つ

発色がずばぬけて良い。肌触りや光沢も素晴らしい。ニットの利点が生きている。したがって、ユニクロのニットに圧倒的な品質で勝つ

発色がずばぬけて良い

ジョンスメドレーのニットのカラーは、ジョンスメドレーのカラーパレットから選ばれる。原材料は外部から調達しているものだが染色はジョンスメドレーの工場で行われるため、ニットのカラーは「ジョンスメドレーにしかない色」になる。

実際、ジョンスメドレーはニットの色展開が豊富である。一つのモデルに10色以上のカラーを展開していることもある。ブラックやグレーといった定番色以外にも、ブルーやグリーンなどの準定番色に段階的な濃淡を入れてカラー展開している。

肌触りや光沢も素晴らしい

ジョンスメドレーが使うエクストラファインウールは、非常に細い繊維で肌触りが良く、肌にも優しい。それから、このウールはきめ細かくカシミアにも匹敵するほどの光沢を持つ。

エクストラファインウールを使ったニットも珍しくはないが、ジョンスメドレーは同じエクストラファインウールでも独自に厳選したものだけを使い、熟練の職人技でニットとして仕上げている。

だから、他社のエクストラファインウールを使ったニットと比べても、ジョンスメドレーのニットは肌触りや光沢で頭一つ抜けていると評価されている。

ニットの利点が生きている

ニットウェアの特徴は軽くて体にフィットすることだ。ジョンスメドレーは「ファインゲージニット」のパイオニアであり、軽くて体にフィットするニットを作っている。

ファインゲージニットは編み目の細かいニットのことだ。ゲージは編み機の針の密度を表す単位であり、針の密度は編み目の細かさに比例する。ゲージの値が大きいとニットの編み目も細かくなり、ニットとしての厚みは薄く、軽くなる。

ニットはゲージの大きさで分類され、編み目の粗いものから「ローゲージ」「ミドルゲージ」「ファインゲージ(ハイゲージ)」となる。ジョンスメドレーが得意とするのがファインゲージだ。

一般的に12ゲージ以上のニットをファインゲージといい、使う糸が細くなり編み目も細かくなる。同時に、ファインゲージのように繊細な編み目のニットを作るには高い技術が必要とされる。

ジョンスメドレーには30ゲージのニットを編む技術があり、その技術を持つことがファインゲージニットのパイオニアと呼ばれる所以である。

ニットの品質は価格の差を埋められない

ユニクロのニットもバカにできない。ニットの価値は「軽くて温かいこと」にある。ニットはデリケートな服だ。したがって、ニットの品質は価格の差を埋められない

ユニクロのニットもバカにできない

ユニクロのコンセプトはジョンスメドレーのコンセプトと似ている。だから、最高品質の素材と技術はなくても、ユニクロのニットはジョンスメドレーのニットに近いものになる。

実際、ユニクロのコンセプトは長く着られる服を作ることだ。ジョンスメドレーの作る最高品質のニットもまた、長く着られる服の一つである。

今の時代、モノの良さを決めるのは目に見えるカタチになる素材や技術だけでなく、モノを作るコンセプトも大切とされる。つまり、商品そのものだけでなく、商品が生まれるまでのストーリーも共有される時代になっている。

ニットの価値は「軽くて温かいこと」にある

ニットが市場に供給している価値は、体を温める機能を、肌着としても使えるくらい軽量な服として我々に与えてくれることだ。

実際、ニットの競合はニットだけでない。ジャケットの下に着るインナーダウンや、機能性の肌着(ユニクロのヒートテックなど)も含まれる。

デザインとしての価値もニットにはあるが、デザインだけではニットを差別化することは難しい。ニットのデザインはシンプルで装飾性が低いことから、ジョンスメドレーのニットがどれだけ光沢に優れていても、ぱっと見でジョンスメドレーと識別することはできないだろう。

ニットはデリケートな服だ

ニットは編むものだから、織物を織るときのように糸が直角に交差しない。そのため、ニットは織物と比べて耐久性が劣り、扱いには注意が必要となる。

ニットの構造は糸でつくったループの結合だ。織物のようにしっかりと糸が結合しているわけではなく、ゆるい結合状態である。

デリケートな服は洗濯にも気を使う。ジョンスメドレーのニットはニットでありながらも耐久性が高いことで知られ、しっかりとケアをしていれば5年でも10年でも着ることができるが、それだけ扱いにも慎重になる必要がある。

ジョンスメドレーのニットは耐久性が高いとはいえ、価格がユニクロの10倍だから耐久性もユニクロの10倍なのかといえばそうはならない。

ジョンスメドレーのニットは、価格は高くても品質の良いものを長く使うという観点ではピッタリだが、毎年のトレンドに合わせて色を変えたいといった楽しみ方はできない。

それに対して、ユニクロのニットはニットの価値は十分に与えながらも、ジョンスメドレーの10%の価格で買えることから、扱いにそこまで気を使わなくてもいいし、毎年のトレンドに合わせて色を変えることもできる。

実生活の中では着ている服に食べ物をこぼしてしまったり、何かに引っかけてしまうこともあるだろう。そんなことに気を使っているのもムダなことなので、ニットはユニクロでも十分だと思えてしまうのだろう。