BCAAにエビデンスはあるのか?その必要性は?

BCAAは、アスリートやトレーニーに人気があるサプリメントのひとつだ。しかし、付加価値系のサプリメントについては、その有効性をしっかりと吟味したうえで導入を検討するべきである。今回はBCAAについてまとめる。

BCAAは無酸素運動において必須のサプリメントではない

BCAAは付加価値系のサプリメントのなかでは、クレアチンとならんで人気のあるサプリメントだ。しかし、BCAAについての研究論文などを読んでいても、BCAAの有効性をポジティブに評価する論文をみつけることはできなかった。

あらかじめ断っておくが、これらの研究結果でBCAAの有効性が完全に否定されているわけではない。ただ、有効性を証明することができなかっただけである。

しかしながら、現状の研究結果からBCAAの必要性を判断するなら、無酸素運動においてはかならずしも必要なサプリメントではない、ということになる。その理由は下記のとおりである。

  • 筋肉の分解抑制が期待されている
  • 無酸素運動におけるエビデンスがない
  • 味は美味しいがコストは高い

筋肉の分解抑制が期待されている

BCAAは、たんぱく質を構成する最小単位であるアミノ酸の種類のひとつだ。アミノ酸のなかでも、BCAAは体内で合成することができない「必須アミノ酸」である。また、必須アミノ酸のなかでも、筋内で代謝されるという特徴がある。この特徴を活かして、BCAAには筋肉の分解を抑制する機能が期待される。さらに、分子サイズが小さいことから、トレーニングの直前からトレーニング中にかけて摂取することが一般的だ。

BCAAはたんぱく質の最小単位だ

そもそも、「BCAA」とはなんなのか?というと、「たんぱく質を構成する最小単位」という説明が分かりやすい。

人がなにかを食べると、食べものに含まれる「たんぱく質」は、ある程度の時間をかけて「ペプチド」という分子に分解される。たんぱく質は、人が吸収するには分子サイズが大きすぎるからだ。

「ペプチド」はたんぱく質よりも分子サイズが小さく、人がそのまま吸収することができる。このペプチドを構成しているのは「アミノ酸」であり、BCAAもアミノ酸における種類のひとつだ。

まとめると、BCAAを含む「アミノ酸」を結合してできたのが「ペプチド」で、ペプチドを結合してできたのが「たんぱく質」ということになる。

体内で合成することができない

BCAAはアミノ酸の種類のひとつだが、なぜBCAAだけが注目されているのか?それは、たんぱく質を構成するアミノ酸のうち、BCAAを含む「必須アミノ酸」は、体内で合成することができないからだ。つまり、外部から摂取する必要があるということだ。

たんぱく質を、たんぱく質を構成する最小単位「アミノ酸」に分解すると、体内で合成できる11種類の「非必須アミノ酸」と、体内で合成できない9種類の「必須アミノ酸」に分類できる。

体内で合成できない9種類の「必須アミノ酸」のうち、「バリン」「ロイシン」「イソロイシン」という3種類のアミノ酸を、「BCAA(Branched Chain Amino Acids)」という。

必須アミノ酸のなかでも特徴がある

「必須アミノ酸」は9種類あるが、そのうち3種類だけを「BCAA」としてサプリメンテーションする理由は、残り6種類の必須アミノ酸とは異なる代謝スキームがあるからだ。

BCAAは筋内で代謝されるのに対して、そのほかの必須アミノ酸は肝臓で代謝される。つまり、必須アミノ酸のうち、BCAAだけが筋肉を動かすエネルギーになりえるということだ。

BCAAを含む9種類の必須アミノ酸を「EAA(Essential Amino Acids)」という。EAAサプリメントもあるが、BCAAの上位互換になることから、BCAAよりも高価なサプリメントである。

エネルギー源として活用したい

BCAAを摂取することで、トレーニング中のエネルギー不足を補いたい。つまり、筋肉の分解を抑制することが、BCAAの目的である。

人が筋肉を動かすときは、筋グリコーゲンを分解してできるATPという物質がエネルギー源として使われている。しかし、ATPが枯渇すると、ATPの代わりに筋肉をアミノ酸へ分解して使おうとする。

このとき、筋内で代謝されるBCAAを摂取していれば、ATPが枯渇してもBCAAをエネルギー源とするため、筋肉を分解することがなくなるというのが、BCAAサプリメントのロジックである。

筋肉を動かすエネルギー源「ATP」については、クレアチンとの関係も強い。

トレーニング前〜中に摂取する

BCAAの効果は、おもにトレーニング中に発揮されるべきものだ。そのため、BCAAはトレーニングの直前からトレーニング中にかけて摂取することが望ましい。

BCAAはたんぱく質に含まれているため、通常の食事にせよ、プロテインパウダーにせよ、たんぱく質を十分に摂っていれば体内に取り込むことはできる。しかし、たんぱく質は人が吸収できる分子サイズとしては大きいため、消化というプロセスを経てアミノ酸へ分解しなくてはならない。

つまり、食事やプロテインパウダーから、BCAAが体内に吸収されるまでには時間がかかるということだ。一般的に、たんぱく質の吸収には、食事を摂取してから3〜4時間は必要だといわれている。

いっぽうで、BCAAはアミノ酸そのものであるため、人が吸収できる分子サイズである。つまり、摂取から吸収までの時間が圧倒的に短い。したがって、トレーニングの直前やトレーニング中に摂取することでも十分に効果が発揮できるということだ。

無酸素運動におけるエビデンスがない

BCAAサプリメントの目的である、筋肉分解の抑制を証明するエビンデンスは今のところ見つかっていない。また、つぎに期待される筋肉痛の軽減についても、知覚的な効果は見られたが、それを証明することはできていない。

筋肉分解を抑制するエビデンスはない

BCAAに期待される最大の効果は、トレーニング中の筋肉分解を抑制することだ。しかし、さまざまな研究結果から、現状でこの効果の有効性を示すエビデンスを見つけることはできなかった。

In summary, the efficacy of a nutritional strategy based on BCAAs supplementation and aimed at reducing/preventing muscle damage resulting from high-intensity exercise seems to be poor.
(まとめると、高強度トレーニングによる筋繊維の損傷を軽減・抑制する目的でのBCAAサプリメントの摂取は、有効性を示すには至っていない。)*1

いっぽうで、この研究における対象サンプル数の少なさ、期間の短さは論文内でも言及されているとおりで、BCAAの有効性を完全に否定しているわけではない。

しかしながら、BCAAの有効性を否定しているわけではないものの、有効性を示すエビデンスがないということも問題だ。また、BCAAはたんぱく質に含まれているのだから、ビーガンのように偏った栄養バランスでなければ、自然と摂取できているとする説もある。

筋肉痛を軽減することはできない

また、BCAAに期待されるもうひとつの効果として、筋肉痛の軽減がある。結論からいうと、筋肉痛の軽減を知覚的に示すデータはあるが、理論的に示すデータはなかった。

At 24 hours postexercise, the reported DOMS scores were 33% lower in the BCAA supplement group compared to the placebo group. However, these results were not significantly different from the placebo group (P = 0.106).
(運動開始の24時間後、DOMS(Delayed Onset Muscle Soreness、遅発性筋肉痛)スコアは、プラセボ群と比較してBCAAサプリメント群で33%低下したと報告されている。しかし、これらの結果はプラセボ群との有意差はなかった。) *2

有酸素運動には有効かもしれない

科学的な根拠に基づかない仮説だが、BCAAサプリメントを摂取することによる筋肉分解の抑制や筋肉痛の軽減は、有酸素運動や低負荷トレーニングにおいては有効かもしれない。

筋肉を動かすときのエネルギー源としてBCAAを使用するのは、高負荷トレーニングのような瞬発力を必要とする運動ではなく、有酸素運動や低負荷トレーニングではないか?ということだ。

つまり、筋肉を動かすエネルギー源は、その強度や持続時間によって異なり、有酸素運動ではBCAAをエネルギー源として使用できるが、無酸素運動ではBCAAをエネルギー源としては使用できないのではないだろうか?

いずれにせよ、筋肥大を目指す高負荷トレーニングに付加価値があるサプリメントとしては、クレアチンによる瞬発的な筋持久力の向上と、それによるトレーニングの追い込みが、もっとも効果的であると考えている。

味は美味しいがコストは高い

クレアチンとは異なり、BCAAにはフレーバーが豊富だ。BCAAの有効性は証明できなくても、味がよくて効果が「あるかもしれない」のであれば、摂取してみてもいいだろう。しかし、ほかのサプリメントとくらべてコストが高いことは欠点である。

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エクステンドシリーズは、BCAAサプリメントのなかでも人気のある商品だ。しかし、トレーニング1回につき1杯としてコストを計算すると、約50〜100円といったところだ。これは、クレアチンの1杯(1日5gのメンテナンス期間)10〜20円とくらべると、かなり高価なことが分かる。

運動パフォーマンスに直接影響するのは「糖質」である。このことは、「たんぱく質」が筋肉の材料となるのと同じく、人の体における原則だ。マルトデキストリンとジュースの素をブレンドして、カーボドリンクをつくることのほうが、確実に有効ではある。

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  • メディア: ヘルスケア&ケア用品

情報に踊らされないためには?

BCAAを含めて、最近では健康ブームの影響により、さまざまなサプリメントが市場に出まわっている。この膨大な情報のなかで、本当に必要なものを見きわめる方法を考えたい。

原則からはじめる

まず、三大栄養素のように、人の生命活動を維持するために必要な栄養から考える。「たんぱく質」は筋肉の材料であり、「脂質」はホルモンバランスを整え、「炭水化物(のうち、糖質)」は運動するためのエネルギーになる。

三大栄養素のバランスがくずれたり、三大栄養素の合計から計算できる摂取カロリーが不足していれば、筋肥大しないどころか、筋肉が減ってしまう可能性すらある。

情報を自分であつめる

付加価値系のサプリメントについては、その有効性には疑問をもち、自分で調べる努力をする。とくに、サプリメント大国のアメリカでは、BCAAやクレアチンといったサプリメントの研究も盛んだ。

また、研究が盛んなことから、あたらしいアップデートが入ることもある。つねに最新の情報を入手し、自分のなかの情報も最新版にアップデートすることをおすすめしたい。